研究概要 |
本研究の目的は、電流誘起スピンダイナミクスの解明と、磁壁や磁気渦の電流誘起スピンダイナミクスを利用した新規省エネルギーデバイスを作製し基本動作を確認することである。以下に、今年度に得られた成果を具体的に記述する。 (1)電流駆動磁壁デバイスにおける低消費電力と高い熱安定性の証明(Nat. Commun. 4:2011 doi: 10.1038/ncomms3011 (2013).) Co/Ni多層膜における電流駆動磁壁移動現象を詳細に調べた結果、磁壁移動に必要な閾電流密度が磁気異方性によって決まる内因性ピニングによって決定されるのに対して、磁壁位置の安定性は欠陥等の外因性ピニングによって決定されることが明らかとなった。内因性ピニングと外因性ピニングは独立に制御することが可能であり、本研究は電流駆動磁壁デバイスにおける低消費電力と高い熱安定性の両立が可能であることを示している。 (2)電流駆動磁壁移動に対するスピンホール効果の影響の解明(Appl. Phys. Express 7, 033005 (2014)) 磁壁移動に必要な閾電流密度と一定電流密度における磁壁移動速度の両方が、±50 Oe以下の外部磁場に対して殆ど変化しないことをこれまでに示したが、さらに大きな磁場では非磁性層Ptのスピンホール効果によるスピン注入による影響が磁壁移動に現れることが明らかとなった(Appl. Phys. Express 7, 033005 (2014))。この効果が大きくなるように非対称な膜構造を持つ試料を用いて調べたところ、断熱トルクによる磁壁移動とは逆方向に磁壁が移動することがわかった。これは、Ptのスピンホール効果によるスピン注入による磁壁移動という全く新しい機構による磁壁移動を示唆する結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、電流誘起スピンダイナミクスの解明と、磁壁や磁気渦の電流誘起スピンダイナミクスを利用した新規省エネルギーデバイスを作製し基本動作を確認することである。研究は当初目標の達成に向けて順調に進捗しているが、当初の目標を超える研究の進展として以下の成果が挙げられる。 (1)電流駆動磁壁デバイスにおける低消費電力と高い熱安定性の証明(Nat. Commun. 4:2011 doi: 10.1038/ncomms3011 (2013)), (2)内因性ピニングによって決まる閾電流密度以下での電流駆動磁壁移動の実証(Nature Nanotechnology 7, 635-639 (2012)), (3)電流駆動磁壁移動に対するスピンホール効果の影響の解明(Appl. Phys. Express 7, 033005 (2014); Appl. Phys. Express 6 (2013)), (4)電界による磁壁移動速度の制御(Nat. Commun. 3:888 doi: 10.1038/ncomms1888 (2012)), (5)磁気コア運動に伴うスピン起電力の検出(Nat. Commun. 3:845 doi: 10.1038/ncomms1824 (2012))
|