研究課題
哺乳類特異的ゲノム機能として、LTRレトロトランスポゾン由来の新規獲得遺伝子および哺乳類特異的エピジェネティック機構であるゲノムインプリンティングにおけるゲノム記憶の消去機構の研究を行った。1) 真獣類・有袋類・単孔類の3つの哺乳類グループおよび鳥類、爬虫類、魚類等他の脊椎動物のゲノム比較から、以前にsushi-ichi レトロトランスポゾン由来のSIRH遺伝子群の網羅的な系統解析を行った。今回は、もう一つのグループであるgypsy_12DRに由来するPNMA(paraneoplastic Ma antigen)遺伝子群について同様の解析を行なった。その結果、われわれが新規同定したものを含め、現在知られている総てのPNMA遺伝子は真獣類特異的であり、有袋類には存在しないこと、また有袋類に発見したPNMA-MS1は真獣類には存在しないことを明らかにした、これにより、これらの遺伝子が真獣類、有袋類それぞれの進化に重要な寄与を果たしたというわれわれの仮説が支持された。2) 始原生殖細胞におけるゲノムインプリントの消去は、細胞分裂に依存しない能動的機構で進むこと、(polyADP)リボシル化酵素であるPARPが関与することを、世界で初めて明らかにした。近年、ゲノムワイドな脱メチル化は5hmCに転換された後、受動的に希釈されると言う考えが主流になりつつあった。しかし、胎生9.5日から11.25日までアフィディコリン存在下で細胞分裂を止めた条件下でもH19-DMRの脱メチル化が進むこと、PARP阻害剤の3アミノベンズアミド添加でこの反応が阻害されることから、この過程に能動的機構が関与していることを実験的に初めて実証した。この結果は、少なくとも雌性生殖細胞系列では始原生殖細胞の能動的脱メチル化は、正常個体発生を保証するために必須であることを意味している。
2: おおむね順調に進展している
本研究において得られた特筆すべき成果として以下の5点があげあれる。1)LTRレトロトランスポゾン由来の新規獲得遺伝子からみると真獣類と有袋類は全く異なる生物群であることを明らかにした。2)LTRレトロトランスポゾン由来のPEG10遺伝子が胎生獲得の鍵を握る機能をもつ証拠をつかんだ。3)ゲノムインプリンティングの記憶の消去が能動的脱メチル化機構によることを明らかにした。4)ゲノムインプリンティングの制御領域が、すべて新規にゲノムに挿入された配列であることを明らかにした。5)マウスにおける半数体ES細胞を安定に培養できる条件を確立し、半数体を維持したままEpiSC細胞に分化できることを示した。また、LTRレトロトランスポゾン由来の遺伝子群のノックアウトマウスの作成は総て完了した。これらのことから、極めて重要な成果を挙げつつ、計画はほぼ順調に進んでいると考えている。
初期のノックアウトマウスの作成には129/B6などF1由来のES細胞を用いたため、これを純系にするために2~3年の時間を労していた。しかし、近年のCRISPR/Cas9の方法を使うことにより、直接、純系のB6で簡単にノックアウトマウスを作製することが可能となった。これにより、すべてのKOマウスの作製を完了することができた。これらのほとんどは、Peg10やPeg11のような致死性は示さず、正常に生育することから、ダブル、トリプルノックアウトなどの作成を進める他、行動解析など詳細な解析を進めて行く予定である。
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