研究課題
LTRレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子の機能解析として、Sirh7/Ldoc1遺伝子が胎盤の各種細胞の分化・成熟に必須の機能をもつこと、この遺伝子のノックアウトは胎盤が産生するホルモン調節の異常により、出産遅延・離乳率の低下が起きることから、哺乳類の生殖機能にとって必須の機能を果たしていることを明らかにした。またげっ歯類の胎盤でプロゲステロン(P4)産生が起きることを初めて実証することに成功し、内分泌学分野で40年以上に渡る議論に決着をつけた。Sirh11/Zcchc16のノックアウトでは新規性等に対応する行動の異常が観察され、脳内モノアミンの調節異常をつきとめた。これはLTRレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子が脳機能の進化にも関係していることを示す重要な知見である。Peg11/Rtl1の胎盤における異常はすでに報告したが、胎児側におきる異常についても新たな知見を得た。これによりもっとも重篤なゲノムインプリンティング疾患の1つであるヒト染色体14番2倍体症候群の病態の主原因がPEG11/RTL1の過剰にあることを実証できた。さらに治療法の開発を現在は検討している。マウス雌性単為発生胚および雄性発生胚から半数体ES細胞の樹立とその安定培養条件を確立した。2011年に樹立の報告はあったものの、すぐに2倍体化してしまうことから実用が難しかったが、細胞周期においてG2からM期への移行を促進する薬剤の添加により、それを可能にした。これにより、スクリーニングへの応用などの哺乳類におけるフォワードジェネティクスを展開する基盤が構築できたため、これからの哺乳類における研究を一層進めることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画以上の成果をあげたものととして以下の3つがあげられる。1)Sirh7/Ldoc1の機能解析ではげっ歯類の胎盤がP4を産生することを、P4測定法自体の開発から行って証明した。これによって、内分泌学上、論争が続いていたこの問題に明確な決着をつけたのみならず、他の真獣類種における同様の問題の解決の道筋を作った。これにより哺乳類における胎盤におけるP4産生の普遍性が証明される可能性が高い。2)哺乳類における半数体細胞株の安定培養条件の確立は、これまでリバースジェネティックスに偏っていた哺乳類の遺伝学に、フォワードジェネティクスを導入できる基盤を作ったものである。3)ヒト染色体14番2倍体症候群の病態をPEG11/RTL1の機能からほぼ説明できる事を明らかにし、疾患治療法の目処をつけたこと。一方で、Sirh4-6の解析についてはノックアウトマウスの作製は完了したが、まだ明確な表現型を同定できていない。Peg10については胎児側でも重要な機能をもつ可能性などが明らかになっているが、肝心の胎盤における生化学的機能の実態について満足の得られる結論を得ていないなど、まだ、未終了の部分がある。
SirhシリーズのノックアウトマウスはPeg10、Peg11/Rtl1以外は致死性とは結びついておらず、表現型を見いだすことが容易ではない。そのため、遺伝子の発現部位の集中的な遺伝子発現および構造異常などの解析を行っている。その中で、脳で発現しているSirh11/Zcchc16やSirh3/Ldoc1lなどに行動異常を検出するなど、着実に成果はあがっている。今度も、同様に、根気づよく解析を進めて行くことが必要であると考えている。Peg10に関しては、欠失胎盤形成ができなくなる原因を胎盤発生のもととなるectoplacental coneを構成する細胞で1細胞レベルでの遺伝子解析を行うことで、その実態に迫ることができると考えている。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
European Journal of Human Genetics
巻: in press ページ: in press
10.1038/ejhg.2015.13
Scientific Reports
巻: 4 ページ: 3658
10.1038/srep03658
Epigenetics
巻: 9 ページ: 1-8
10.4161/epi.26939
巻: 4 ページ: 5181
10.1038/srep05181
Biological Reproduction
巻: 91 ページ: 120
0.1095/biolreprod.114.120451
Development
巻: 141 ページ: 3842-3847
10.1242/dev.110726.
巻: 141 ページ: 4763-4771
10.1242/dev.114520
http://www.tmd.ac.jp/mri/epgn/index.html