研究課題/領域番号 |
23222002
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
池田 栄史 琉球大学, 法文学部, 教授 (40150627)
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研究分担者 |
楮原 京子 山口大学, 教育学部, 講師 (10510232)
後藤 雅彦 琉球大学, 法文学部, 准教授 (30291553)
根元 謙次 東海大学, 海洋学部, 教授 (70164663)
佐伯 弘次 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 教授 (70167419)
柳田 明進 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 研究員 (30733795)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 鷹島海底遺跡 / 元寇(蒙古襲来) / 水中考古学 / 水中文化遺産 / モニタリング調査 |
研究実績の概要 |
本研究は長崎県松浦市鷹島海底遺跡を対象として、元寇沈没船の検出とこれに対する調査・研究を行なうこと目的とする。採択期間の4年目にあたる今年度については、松浦市鷹島の南海岸沖合において、平成25年度に実施した11海域の音波探査データの解析から、元寇沈船あるいは元寇関連遺物と推測される音波探査反応9地点について、鉄棒による刺突調査とその成果を踏まえた試掘調査を行なった結果、1地点で新たな元寇沈船を発見した。 音波探査を行なった11海域(A~K)は、平均して1海域あたり一辺約400m四方を計り、各海域からは複数の反応が得られた。その中から、C海域3地点、E海域4地点、J海域2地点の9地点について、長さ約2mの鉄棒を用いた刺突調査を実施し、C2およびJ1地点から木材の反応を得た。そこで、C2地点について試掘調査を実施し、沈没船の一部を検出した。沈没船は水深約14mの海底面から1mほど掘り下げた位置に、船首を南に向けた状態で検出されており、南北長約10m、東西幅約3mほどが残存すると推測される。しかし、今年度は調査期間が限られたことから、船体の一部を確認するに止めている。 なお、平成24年3月に行なわれた「鷹島神崎遺跡」の国史跡指定後、本科研費研究によって発見される元寇沈船は、逐次、国史跡に追加指定されることとなったことから、その取扱いは遺跡を管轄する松浦市教育委員会や文化庁との協議に基づく対応が必要となった。現在、文化庁では国指定範囲内の元寇沈船について早急な引き揚げを行なわず、現地での保全と活用を図る方針である。そこで、本研究では文化庁および松浦市教育委員会と協議の上、検出した沈没船について、現地での埋め戻しを行なうとともに、発掘調査後の保全に関するモニタリング調査を実施することとした。 これらの調査・研究の内容の一部については、平成27年3月に「調査・研究報告書」を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では採択期間(平成23~27年度)の間に、鷹島海底遺跡において沈没船をはじめとする元寇関連遺物を検出する調査手法を確立すること、またこれによって検出した元寇関連遺物に関する調査・研究を推進し、元寇研究の活性化を図ることを目的としている。 これに基づき、平成23年度には元寇沈船を検出した。この成果は国民的な関心を呼び、発見した元寇沈船は平成24年3月の「鷹島神崎遺跡」の国史跡指定にともなって、指定範囲に繰り入れられた。また、その後、本研究で検出した元寇沈船は、平成25年度より文化庁が設置した「水中遺跡調査検討委員会」の調査研究対象遺跡となった。このこともあり、国史跡指定後、本研究では文化庁および松浦市教育委員会との協議の下に、鷹島海底遺跡での調査・研究を進めており、平成24年度には元寇船の残存状況確認調査を実施した。 さらに、その後の継続的な調査・研究では、平成25年度に元寇船のものと推定される新たな木製碇、平成26年度には2艘目となる沈没船を検出した。現在、検出した元寇沈船をはじめとする元寇関連遺物については現地保存を図るとともに、長期的な保全に備えたモニタリング調査手法の構築を進めている。 本研究の特徴は、主に海底資源調査に用いられる音波探査装置について、水中文化遺産に対する水中考古学的調査・研究への応用を試みる点にある。これまでの沈没船をはじめとする元寇関連遺物の検出によって、目的とする調査研究手法の妥当性が検証されるとともに、その確立が図られたと考えられる。 さらに、本研究による元寇沈船発見のニュースは世界的な関心を呼び、モンゴル共和国では日本政府に対して、鷹島海底遺跡に関する国際共同調査を提案するに至った。このような関心の高まりは、本研究が進める元寇関連資料の調査・研究の展開にも良い影響を及ぼしており、国内外における元寇関連資料の収集と検討が急速に進みつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に一部を発見した沈没船については、元寇沈船であるかどうかの確認と残存状況把握のための発掘調査を実施することが必要である。この際、これまで実施してきた音波探査装置を用いた海底堆積層に対する探査データの再検討を行ない、元寇関連遺物発見の精度を高める試みを行なうこととする。 また、これまでに本研究で発見した沈没船をはじめとする元寇関連遺物は発見海域での現地保存を図るとともに、その周辺海底において水温や酸素濃度、水流変化などに関するデータ蓄積のためのモニタリング調査を継続的に実施している。今年度はこれまでの蓄積データの分析を行なうとともに、これを踏まえた今後の現地保存手法に関する提言をまとめる。 平成23年度以来継続的に実施している元寇関連文献資料調査については、今年度末にこれを取りまとめた総括報告書を作成する。これを含め、今年度末に刊行する報告書は本研究採択年度の最終報告書となり、水中考古学的調査成果に加えて、発見した沈没船を含む元寇関連遺物の現地保存に関する自然科学的調査研究成果、文献史料悉皆調査に基づく文献史学研究成果の3つを網羅した総合研究報告書となる。 その上で、報告書作成および刊行の後には、これらの研究成果を広く公開することを目的として、東京国立博物館(平成28年2月6日)、九州国立博物館(平成28年2月14日)、その他の関係機関と協力し、公開講演会を実施する。 また、本研究期間終了後、鷹島海底遺跡および水中文化遺産に対する調査研究を総合化する「水中文化遺産学」の構築に向けた調査研究活動の創設を進めることとする。
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