研究課題/領域番号 |
23224003
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
堤 誉志雄 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10180027)
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研究分担者 |
岡本 久 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (40143359)
中西 賢次 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40322200)
澤野 嘉宏 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (40532635)
岸本 展 京都大学, 学内共同利用施設等, 助教 (90610072)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 非線形波動・分散型方程式 / 不変測度 / 不安定基底状態 / 解の大域挙動 / ストークス・ドリフト / 重力-表面張力水面波 / Beal-Kato-Majda型爆発判定条件 / Orlicz-Morrey空間 |
研究概要 |
研究代表者の堤は,吉川周二氏との共同研究で,形状記憶合金の数理モデルであるFalk方程式に対し,Gibbs測度とKuksin流の不変測度の二つを構成した.それぞれ一長一短があり,今後はこれら二つの不変測度に,方程式の非線形性がどのような影響を与えるのか調べることが課題となる. 研究分担者の中西賢次氏は,J. Krieger氏, W. Schlag氏との共同研究により,空間1次元における非線形クライン・ゴルドン方程式の不安定基底状態の近傍から出発する偶函数解の大域的漸近挙動を完全に決定することに成功した.従来,基底状態のエネルギーより低準位の解については,その大域的挙動はよく調べられていたが,基底状態の近くとは言え,それよりエネルギー準位の高い解の挙動については数学的な考察はほとんどなかった. 研究分担者の岡本久氏は東海林まゆみ氏とともに,非粘性,非圧縮生,渦なしの流体における水面波に対し,ストークス・ドリフトの問題を数値シミュレーションと数学理論の両方の立場から研究した.重力水面波の数値計算結果はすでに多数知られていたが,今回表面張力水面波と重力-表面張力水面波の数値シミュレーションにも成功した.また,線形近似では流線が円や楕円のように閉曲線となるが,2次の非線形性まで考慮すると流線は閉じず次第に移動し始めるというストークス・ドリフトの問題に対し,既知のものに較べ極めて簡明な函数論的証明を与えることにも成功した. 研究分担者の澤野嘉宏氏は,Sadek Gala氏,田中仁氏とともに,3次元磁気微極性流体の方程式に対して,Orlicz-Morrey空間におけるBeal-Kato-Majda型の爆発判定条件を研究した.Orlicz-Morrey空間のような,Lebesgue空間よりも函数の正則性をより精密に測ることができる空間を,非線形発展方程式へ応用することは重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,時間に関して2階の非線形分散型方程式であるFalk方程式に対して,不変測度を構成する研究を行った.Falk方程式は無限次元ハミルトン系と見なすことができ,現在までに知られている無限次元ハミルトン系に対する不変測度は,Gibbs測度とKuksin流の不変測度の二つである.今回は,Falk方程式に対して,これら二つの不変測度の構成を試みた.Gibbs測度に関しては,先行結果とあまり大きな相違はなかったが,Kuksin流の不変測度に関しては先行論文はすべて時間に関する1階の方程式を扱っており,2階の方程式に対してKuksin流の不変測度の構成を行ったのは今回が初めてであると思われる.実際,時間に関して2階であるFalk方程式の場合,KuksinやKukshin-Shirikyanによる証明方法はそのままでは適用できない部分のあることが分かった.この点は研究の不十分さとも言えるが,むしろ問題点が明らかに成り,今後の研究の方向が明確になったと解釈したい. それに加え,非線形波動・分散型方程式の不安定基底状態の近傍から出発する解の時間大域的挙動については,世界的にも中西賢次氏を中心に行われてきたと言っても過言ではない.また,岡本久氏により流体力学の方程式に対し,数値シミュレーションをともなう数学的解析が行われ,ストークス・ドリフトの問題については大きな成果を得た.数学的解析の基礎となる調和解析的研究手法の開発についても,澤野嘉宏氏は,Orlicz-Morrey空間を3次元磁気微極性流体のBeal-Kato-Majda型爆発判定条件へ応用するなど前進を見た. 以上より,本年度の本研究課題はおおむね順調に進展したと考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの研究成果を踏まえ,今後は次のように研究を進める.まず,非線形波動・分散型方程式の不変測度の性質について調べると共に,確率的摂動項が付いた非線形波動・分散型方程式に対し,解の正則性・特異性を研究する.特に後者の出発点として,Zakharov方程式のような,物理的に意味のある確率摂動付き方程式で,決定論的非線形偏微分方程式としては比較的研究の進んでいる方程式を考えるのは適切であろう.電離層におけるプラズマのラングミュアー擾乱は,Cherenkov放射や熱雑音によるノイズの効果を含んだZakharov方程式で記述されると考えられており,その解析は数学の見地からだけでなく数理物理的にも重要である.次に,非線形波動・分散型方程式の不安定基底状態の近傍から出発した解の大域挙動の研究については,現存するほとんどの研究においては,解の球対称性などの何らかの対称性が仮定されている.その理由は,現段階では最小爆発解の存在証明に,球対称性が重要な役割を果たすからである.このことは,方程式の変分構造と解の大域挙動との関係が,まだ完全には理解されていないことを示唆している.これを克服するために,もっと多くの個別の研究事例を積み上げ全体像を把握し,その中から本質を抽出することを試みる.さらに,数学理論による解析が困難な場合は数値シミュレーションが有用であるが,数値シミュレーションは常に正しい計算結果を与えてくれるとは限らない.特に,真の特異点と特異性に近いが実際は正則である擬似特異点を数値的に識別することは困難であるが,数値シミュレーションを実行するために避けて通れない問題である.そのため,流体力学の方程式に対して,真の特異性と擬似特異性を識別できる数値シミュレーション手法の開発を目指す.以上の数学的解析の基礎となる,調和解析的研究手法の開発も試みる.
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