研究課題/領域番号 |
23224008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷畑 勇夫 大阪大学, 核物理研究センター, 特任教授 (10089873)
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研究分担者 |
土岐 博 大阪大学, 核物理研究センター, 名誉教授 (70163962)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 核構造 / テンソル力 / テンソル最適化殻模型 / 高運動量成分 |
研究概要 |
核物理研究センターの実験のための検出器の読み出し回路を開発した。予定している実験では1000チャンネル以上の信号を読み出す必要があるため、集積度の高い読み出し回路が必要である。回路のプロトタイプを完成し、大阪大学のバンデグラフ加速器デテストを行い、予定道理の性能が得られることを確認した。それを元に、必要な全回路の製作を行った。本年度中は加速器施設の耐震工事のために運転がされなかったため核物理研究センターの加速器を用いた実験はできなかった。来年度には実験を行う準備ができている。 昨年以来解析を行っている、16O(p,d)15O反応については、反応計算が進み、励起状態への’断面積の変化を説明するためには、テンソル力による高い運動量を持った核子がテンソル相関を持った状態に必要であることと、矛盾しないことが、理解できるようになった。 テンソル力の原子核での働きについての理論的研究を行った。一つは、軽い原子核の構造でこれまでにHeアイソトープにくわえてLiアイソトープの計算をテンソル最適化殻モデルで行った。テンソル力は核力を用いており、全ての力の強さは核子散乱で決定されており、核力に含まれるテンソル力の核構造への影響を調べることができる。実験値と比較して非常に満足のいく結果を得ることができた。テンソル力を入れない有効相互作用の場合と較べると、そのスペクトルへのテンソル力の影響は顕著である。 もう一つは、核力を使って核物質の理論的研究を行った。この際の定式化は強いテンソル相関ハートレーフォック理論(STCHF)とよんでいる。2体力の範囲で計算していることと、相関をきっちり取り込んだ計算になっているが、束縛エネルギーが核子あたりで約3MeV不足しており、3体力の導入が望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験では、テンソル力の寄与が必要で有ることを示すデータが16O(p,d)15O反応の実験で得られた。また理論ではテンソル力を陽に入れた理論の構築ができ、ある程度定量的な議論ができることを示すことができた。また、実験データを理解するための反応計算における共同研究もレールに乗り詳細な解析が行えるようになっている。 それと同時に、テンソル力の殻構造への寄与は、当初考えた方法だけではなく、いろいろ他の方法でも検証できることが判るようになってきた。例えば4He核の中でのスピン相関にもテンソル力が強く反映することや、重い核での平均場近似モデルでテンソル力が含まれないことによる不備が現れることなど、実験理論両面に渡って新しい知見が得られている。 さらに本実験研究で主に使用している(p,d)反応の基本反応であるpd弾性散乱の理解が十分でないことが露見してきた。このことにより研究の範囲に大きな膨らみが出てきた。 研究課題の膨らみとともに、テンソル力の研究を進めるグループも拡大しきており、当初の計画にはなかった手法での研究も可能となった。 このような状況を反映して、世界的にもテンソル力の重要性は認められることになってきており、いくつもの国際会議で招待講演を行うようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の予定である0°での(p,d)反応の高エネルギーでの測定を進めるとともに、測定装置が完成した核子移行反応の実験を進めていく。当初予定した研究装置はほぼ完成してきており、データ収集のステージに移っている。 さらに最近新しく開発してきた、テンソル力に関連すると見られる物理量の測定を研究グループを拡大することにより可能としていきたい。 理論研究としては、テンソル最適化殻模型の精密化と、さらに重い原子核への応用を進めていく予定である。また、強いテンソル相関ハートレーフォック理論(STCHF)を精密化し、重い原子核におけるテンソル力の影響を明らかな形で導き出すための研究を行う。
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