研究課題
(1)マントル遷移層における第二大陸の広域分布:これまでに、マントル遷移層下部(520-660km深度)に表層の第一大陸の約7倍に達する第二大陸と呼ばれる花こう岩質物質が滞留していることが示されたが、本年はアジア北東部の沈み込み帯における第二大陸の分布について示した(Wang et al, 2014; Wei et al, 2015)。さらに、全地球規模での第二大陸の広域分布を本提案研究の終了までに示す予定である。(2)第二大陸の発熱効果とダイナミクス:花こう岩質物質は周囲のマントルに比べて約400倍のウラン・カリウム・トリウムを含有するので、約1億年で100-150℃の温度上昇が期待され、マントル遷移層の底ではメージャライトの安定領域が広がる。この相転移の効果を考えるために数値計算のコードに改良を加え、遷移層(400-700km深度)の空間解像度を高め、メージャライト相への相転移がマントルダイナミクスに大きく影響することを定量的に示した。本年ではその結果を現在の東アジア直下のマントルダイナミクスに適用する。(3)過去の構造浸食の定量的評価:川砂ジルコンの研究と地球史における造山帯の量的変化曲線の差から約15-6億年前に大規模構造浸食が起きたことが明らかとなった(丸山他、準備中)。本年は、世界的大不整合直上のジルコンの年代分布曲線と第二大陸の総量、構造浸食の卓越した時代を組み込み、太古代の島弧沈み込みと構造浸食の効果を定量化する。(4)第三大陸の見積もり:マグマオーシャンの固化直後、広大な原初大陸が地表を覆い、そこで生命の前駆的化学進化が進み、地球生命が誕生したと思われる。第一原理計算(河合他)から、この原初大陸はマントル最下部に40億年前までに崩落蓄積したことが予測される。マントル最下部での鉱物組み合わせから推測される地震学的特性や物性から、原初大陸がD“層の中の主要構成成分であることを検証する。
1: 当初の計画以上に進展している
表層地質(丸山):いつ、どこで大規模な構造浸食が起きたのか、その量的な見積もりを(1)世界的大不整合直上の砂岩中のジルコンの年代頻度分布曲線、(2)現世の川砂ジルコンの年代頻度分布、(3)造山帯の成長曲線と(4)地震学的な手法による第二大陸の総量推定値の比較から求めた。地球化学(横山):ジルコンの年代測定を高精度・高分解能で迅速に分析する技術の開発をめざし、TIMSによる極微少量Pb同位体測定技術の開発を行った。実験試料ならびに方法の再考・再開発によって、1ng以下の極微少量のPb同位体比を従来の1.5倍の精度で測定することに成功し、微小ジルコンのU-Pb年代測定に大きく貢献する結果を得た。岩石学(大森):多様な起源を持つジルコンの微量元素分析データを収集し、多変量主成分解析を行うことによって、ジルコンの生成起源の判別指標となるパラメーターを明らかにした。地震学(Zhao):地震波トモグラフィーの解析によって、太平洋プレートの沈み込むスラブが北中国クラトン直下のマントル遷移層に滞留していることを明らかにし、それらの対流スラブ上部のマントルウェッジにおける流体の上昇流が東北アジア地区におけるプレート内部の火山活動の原因であり、その熱源が直下の第二大陸にあることを示した。数値計算(千秋):第二大陸の成長に伴う熱源元素の再配分がマントルダイナミクスに与える影響の評価の精度をあげるために数値コードの改良を行った。この改良によって、メージャライト相への相転移がマントルダイナミクスに影響を与えることを明らかにした。地球物理学(河合):高圧下での大陸地殻組成の鉱物組み合わせ、相安定および弾性的性質についての研究を進め、第一原理電子状態計算により、65Gpaでは地震波速度の不連続面は生じないことを明らかにした。さらに全マントル深度での原初大陸(第三大陸)の存否を判定できる鉱物の推定とその物性的特性を計算で求める。
残された課題のひとつは、地表から消失した花崗岩地殻の総量の定量的な推定と、全地球規模での第二大陸の分布の観測である。これについては、既に定性的ではあるが趙のトモグラフィーから第二大陸の予察的な広域分布を示した(丸山他、2011)。これに、花こう岩質物質に固有の鉱物相転移深度(河合他)をトモグラフィーと組み合わせて、半定量的な第二大陸広域分布図を作成する。次に、この分布図と上部マントルと表層の構造運動と火山活動(断層分布、火山分布、地震分布)から第二大陸が引き起こすであろうマントルダイナミクスとorogenesisの関係を解明する。これらの一部はすでに投稿中であるが、総まとめを含めた特集号を外国雑誌に作る予定である。一方、第三大陸(原初大陸)については、40億年前までに激しいプレート運動によって構造浸食により地表から消失しマントルの底に崩落したことを第一原理計算から予測した。一方、我々のグループは、北米、西オーストラリア、南アフリカおよびその他の地域で記載された太古代前期の堆積物中のジルコンの年代頻度分布から、40億年前頃までに原初大陸(第三大陸)の消失が起きたことを明らかにした。崩落した原初大陸は、底部マグマオーシャンと反応して融解し、その後の徐冷によってカルシウムペロブスカイトを主成分とした岩体へと変化し、さらに、それらはD“層の主成分鉱物に比べると軽いためにアノーソサイト質な第三大陸は下部マントルの中部深度まで漂移上昇したことが推測される。一方、原初大陸の約2分の1を担ったと思われる鉄に富むKREEP塩基性岩はD”層の主成分となった可能性が大きい。原初大陸は基底マグマオーシャンに融解したあと、大きく2つの成分に分かれたと予測されるに至った。本年度は、D”層を含む下部マントル全域を対象にしてこれら2つの分布域を地震学的に探索する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (37件) (うち国際共著 4件、 査読あり 36件、 オープンアクセス 14件、 謝辞記載あり 9件) 学会発表 (37件) (うち招待講演 9件) 図書 (1件)
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