研究課題/領域番号 |
23225004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
明石 満 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20145460)
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研究分担者 |
木田 敏之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20234297)
松崎 典弥 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00419467)
赤木 隆美 大阪大学, 臨床医工学融合研究教育センター, 特任研究員 (00527236)
網代 広治 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究推進センター, 特任准教授 (50437331)
田畑 雅士 独立行政法人国立病院機構都城病院, 歯科口腔外科, センター長 (60207214)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高分子化学 / 高分子薄膜・表面 / 交互積層法 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、世界に先駆けて当該研究室から報告した交互積層法の手法、つまり弱い高分子間相互作用を積極的に利用して、得られるLbL高分子バイオマテリアルを生医学領域への応用を示すことが目的であった。昨年度は研究課題が3年目を迎えて、進捗報告の結果、一定の評価を受けた。それを受けて平成26年度では、交互積層法の学術的な基礎データを完成に向けるとともに、LbL高分子バイオマテリアルの創製に関して実績を残した。 まず、交互積層法の基礎データに関連して、ポリメタクリル酸メチルのステレオコンプレックス形成を駆動力とした交互積層薄膜のテンプレート重合において、重合の温度効果を調べた。また、交互積層薄膜によって形成される中空ナノ粒子がチューブ化する現象について、新たにポリビニルアルコールを用いた実験系でも達成できることを示した。さらに、今年度はバイオマテリアル利用に着目し種々のゲル材料へ展開した。ゲル表面のみにポリイオンコンプレックスを有するゲルでは、組成やpH条件を変化させてモデル薬物放出挙動を明らかとした。一方で、生分解性高分子であるポリ乳酸を用いたオイルゲルを新たに構築し、骨再生因子を薬物モデルとして担持材料としての利用を検討した。 続いて、細胞を用いた交互積層法についても実績を残した。例えば、細胞上にコラーゲンを高分子成分として交互積層法を適用することにより、自在に膜厚を変化させたコラーゲンを一細胞上に構築可能であった。また、ヘパリンを用いた一細胞上への交互積層法では、交互積層薄膜で覆われた一細胞同士を架橋させることに成功した。 また、ステント素材を目指してポリ乳酸とトリメチレンカーボネートの共重合体を合成した。この薄膜は最表面の組成を制御可能であることを示した。ポリ(γグルタミン酸)を用いたナノ粒子の免疫活性を調べた。アガロースゲルを用いた手法により、歯の臨床結果をまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたとおり、種々の高分子を用いて弱い相互作用に基づく交互積層薄膜の実験を進めてきた。その結果、新たに当該領域における学術的に基礎的な知見が得られたとともに、LbL高分子バイオマテリアルの創製に新たな成果を挙げた。 本年度の研究成果で報告した論文から、成果内容は、LbLの基礎的な知見・ゲル材料・バイオマテリアル応用・細胞を基板とした交互積層薄膜の構築とその機能性・ナノ粒子や薄膜をバイオマテリアルへの利用検討・免疫活性の評価・臨床実験の結果、に分類できる。これらは、当初計画書で記載した通り、当該研究室が世界をリードしてきた弱い相互作用に基づく交互積層法を、実際に生医学領域へ応用可能であることを示すものである。このことから、おおむね順調に進んでいると自己評価した。 特に今年度に特徴的な点として、治療を視野に入れた成果が挙げられる。例えば、アガロースゲルを用いて交互浸漬法により調製したLbL高分子バイオマテリアルでは、歯学部と共同で臨床実験へ展開していたが、これが論文化された。またLbL高分子バイオマテリアルに加えて、その知見を活かしたブロック共重合体のスピンコート薄膜では、調製条件によって分解速度の異なる素材を構築できた。さらに、従来から用いている疎水化ポリ(γグルタミン酸)では、そのナノ粒子の調製と高分子成分から免疫活性に与える影響を明らかとした。また、細胞外マトリックスとして交互積層法によるナノフィルムを構築し、これらが組織化に果たす役割を調べることで、生医学領域への応用が可能であることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究成果から、完成に近づいた部分は一定のめどをつけて実験を終了し、まとめに入る一方で、新たに見出された部分についてはさらに掘り下げて学術的な基礎データを完成に近づける。一方、高分子素材の開発、細胞実験、および臨床試験は継続し、LbL高分子バイオマテリアルが生医学領域へ利用できるように研究を展開する方策である。 まず、完成に近づいた部分として、交互積層法から得られた中空ナノ粒子の自己集合および中空ナノチューブ形成に関しては、様々な高分子を用いて達成され汎用性が示されたので、ここで区切りをつける。これに伴い、1名の研究分担者は本研究課題の担当を終了する。 一方で新しく見出された今年度の面白い成果として環状オリゴ乳酸の相互作用が挙げられる。これまで高分子間相互作用として弱い相互作用に着目してきたが、分子量と形状が明確であるオリゴマーの領域に広げることで、弱い高分子間相互作用をさらに深く理解することができると考える。そのため、来年度平成27年度では環状化合物の合成の専門家1名に新たに研究分担者として参画してもらう。 ナノ粒子はバイオマテリアルとして免疫活性などに実績が上がっている。そこでこの分野の専門家にも新しく1名参画してもらい2名の研究分担者の体制で行う。高分子素材については、弱い高分子間相互作用を示すポリ乳酸を骨格にして、その構造を化学的に修飾することにより機能化を図る。細胞実験については交互積層法によるナノフィルムの機能化を継続し、臨床試験については、アガロースゲルを用いる手法を継続する。
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