研究課題/領域番号 |
23225005
|
研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
齋藤 軍治 名城大学, 農学部, 教授 (40132724)
|
研究分担者 |
吉田 幸大 名城大学, 農学部, 助教 (10378870)
伊東 裕 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10260374)
岸田 英夫 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40311633)
清水 康弘 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (00415184)
大塚 晃弘 京都大学, 低温物質科学研究センター, 准教授 (90233171)
前里 光彦 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60324604)
|
研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
|
キーワード | スピン三角格子 / 量子スピン液体 / 超伝導 / 有機π分子 / キャリア注入 |
研究概要 |
本研究課題によって見出された有機スピン液体候補物質κ-(ET)2X塩およびC60塩について、常圧および圧力下での基底状態の解明を中心に研究を推進した。 1H NMR測定からκ-(ET)2Ag2(CN)3(t'/t~1)が0.1 Kまで長距離磁気秩序を示さないことを明らかにした。また、擬一次元的三角格子(t'/t>1)系κ-(ET)2B(CN)4が約5 Kでスピンシングレット状態に、κ-(ET)2CF3SO3が2.5 Kで反強磁性秩序状態に転移をすることを見出した。 3回対称性N-メチルキヌクリジニウム(MQ)陽イオンを用いて、新規C60スピン三角格子系(MQ)(TPC)(C60)を開発した。類似構造を有する(MDABCO)(TPC)(C60)とは異なりMott絶縁体であり、Mott境界を挟んだ金属/絶縁相に位置する錯体の開発に成功した。 赤外可視スペクトルの測定から有効電子数の異方性評価を行い、t'/tは当該領域の光学伝導度の積分強度によって評価できることを明らかにした。 反強磁性体κ-(ET)2CF3SO3が1.3 GPaの静水圧下でMott転移を起こし、4.3 Kで超伝導転移を示すことを見出した。本物質はt'/t>1領域のκ-(ET)2Xにおける初めての超伝導体である。結晶構造解析ならびに1Hや19F NMR測定から、常圧下で観測された伝導挙動の異常とCF3SO3陰イオンの動的挙動の関係を明らかにしつつある。 スピン液体κ-(ET)2Ag2(CN)3単結晶を用いてイオン液体ゲートトランジスタを作製し、n型電流増幅の観測に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スピン液体の候補物質は有機・無機を問わず少なく、電子状態解明の大きな障壁となっていた。本研究課題では新規スピン液体κ-(ET)2Ag2(CN)3の開発に成功し、また、ほぼ未開拓であったt'/t>1領域に位置するκ-(ET)2B(CN)4の開発にも成功した。本研究課題が始動する以前には、基底状態が確定されたκ-(ET)2X系Mott絶縁体は2種類しかなかったが、X = Ag2(CN)3はスピン液体、X = B(CN)4はスピンシングレット、X = CF3SO3は反強磁性秩序と、多彩な基底状態を有することを明らかにした。特に、κ-(ET)2Ag2(CN)3は既知スピン液体κ-(ET)2Cu2(CN)3と同形構造でありながら大きなU/tを有するため、スピン液体-超伝導相境界付近における温度-圧力相図について多くの知見を得た。 赤外可視スペクトルからκ-(ET)2Xにおける有効電子数の異方性を評価することにより、t'/tを実験的に算出できる手法を見出したことは、当初の目標を超えるものである。本手法により、X線結晶構造解析が困難な低温領域における異方性評価が可能になり、諸電子物性データの理解が格段に進むと期待できる。 外場によるキャリア注入に関しても、スピン液体κ-(ET)2Ag2(CN)3においてn型電流増幅を観測することに成功した。有機単結晶に対するイオン液体ゲートの測定例は少なく、有機導電体における伝導特性、特に超伝導特性の制御手法として今後の発展が期待できる。 本研究課題では、C60ラジカル陰イオンから成るスピン三角格子物質を複数種開発した。特に、Mott境界近傍に位置する金属ならびに絶縁体スピン三角格子C60塩の開発に成功したことは、超伝導相ならびにスピン液体相の探索の端緒と言える。 以上の理由から、本研究プロジェクトは当初の目標を超える研究の進展があり、予定以上の成果が見込まれると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度までと同様に、電解酸化法を用いたET系新規スピン三角格子物質の開発を行う。また、13C核を含むκ-(13C2-ET)2Xを合成し、NMR測定からスピン液体の局所帯磁率を明らかにする。さらに、高圧下で出現するMott転移と超伝導相の電子状態や超伝導対称性についてもNMRを用いて詳細に調べる。 一軸性圧縮実験を行い、新規スピン液体κ-(ET)2Ag2(CN)3の温度-圧力相図を作成する。新規スピンフラストレート系κ-(ET)2B(CN)4については、キュービックアンビルを用いた超高圧下での輸送特性測定を行い、Mott転移や超伝導相の探索を行う。また、一軸性圧縮によりt'/tの制御を行い、超伝導相探索ならびに超伝導転移機構とスピンフラストレーションとの関係について知見を得る。新規超伝導体κ-(ET)2CF3SO3については、更新予定の超伝導マグネット電源を用いて磁場下での輸送特性測定を行い、上部臨界磁場など超伝導特性の解明を進める。 C60系陰イオンラジカル塩については、種々のサイズの3回対称性分子を用いて二次元金属やスピン液体の開発を行う。また、類似した幾何構造を有する異価数分子やアルカリ金属イオンを対成分層へ導入することにより、C60正三角格子へのキャリア注入を行う。 光学応答の側面からは、基礎スペクトルを活用したET塩の電子状態の詳細な理解と、電場と光の外場下における特異な物性の研究を行う。具体的には、電場印加によって誘起される新しい状態のミクロな電子状態の解明を行う。 イオン液体ゲートトランジスタについては、ET塩において確認されたn型挙動の起源の解明を進め、金属-絶縁体転移や超伝導転移など新奇物性の探索を行う。様々なκ-(ET)2X塩について測定を進めるとともに、界面伝導の特性の系統的理解を進め、電気化学測定や光学測定等によりそのメカニズムを明らかにする。
|