研究課題/領域番号 |
23225006
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
三澤 弘明 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (30253230)
|
研究分担者 |
村越 敬 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40241301)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 局在プラズモン / ナノ材料 / 光物性 |
研究実績の概要 |
1. 大きな光電場増強を実現する光アンテナの設計と創成 酸化チタン単結晶基板上に金/アルミナ/金を積層した積層型ナノギャップ金構造体の近接場強度分布や光電場増強のアクションスペクトルをフェムト秒レーザー励起の光電子顕微鏡計測により明らかにした。誘電体層を介して2つの金ナノ構造間の近接場相互作用によって生じる暗モードのプラズモン共鳴が明モードと干渉することにより、ファノ共鳴が誘起され、スペクトルのディップ波長近傍において光電場増強効果が著しく得られることを明らかにした。また、単純に金属ナノ構造に対して、斜めから入射した光の偏光を制御することにより、明モードの双極子共鳴と暗モードの四重極子共鳴をそれぞれ励起できることを明らかにした。このことから、時間分解光電子顕微鏡計測により、暗モードのプラズモン共鳴の方が明モードに比べて、位相緩和時間が長くなることを明らかにした。 2. 太陽光を金ナノ構造に強く結合させるナノシステムの開発 光電変換系においては、金属ナノ構造で生じる光の散乱がロスになる。また、共鳴しない光子は光電変換に寄与できない。本年度は酸化チタン電極を薄膜化するとファブリーペロー干渉により、薄膜内に光が閉じこもり、光電流が増幅することを明らかにした。一方、アルミニウムナノ構造体の光学特性を検討したところ、アルミニウムのバンド間遷移による吸収と局在プラズモン共鳴が相互作用し、可視・近赤外波長域でスペクトルが分裂して広帯域化するとともに、散乱の寄与が減少することを明らかにした。また、金属ナノ構造体の光電場増強場に空間選択的にポルフィリンのJ会合体を配置し、弱結合やプラズモンと結合していない分子をスペクトル特性から除去することに成功した。これにより、過渡吸収分光計測系を用いて、強結合準位の緩和時間が~200 fs程度であることが明らかになり、エキシトンポラリトンのダイナミクスの理解に繋がった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下の研究達成項目から本課題が当初の計画以上に進展していると判断した。平成25年度の研究実施項目に沿って、酸化チタン単結晶基板上に高い光電場増強を示す光アンテナ構造(金/アルミナ/金)を作製し、光電子顕微鏡を用いて光電場増強のアクションスペクトルを計測することに成功するととともに、ファノ共鳴が高い光閉じ込め効果を示すことを観測することに成功した。また、プラズモン-エキシトン強結合状態の緩和ダイナミクスを過渡吸収分光計測系により明らかにした。一方、電極の薄膜化により光を有効利用し、光電変換特性が向上することも明らかにした。さらに、本年度は新たに入射光の偏光を制御することにより、プラズモンの明モードと暗モードを選択的に励起できることを明らかにし、時間分解光電子顕微計測によりそれらの共鳴の位相緩和ダイナミクス、および光電場増強効果が異なることを世界で初めて実証した。つまり、暗モードを積極的に利用すると高い光アンテナ特性が得られることを明らかにした。また、金だけではなく安価なアルミニウムでも可視・近赤外波長域で光電場増強効果を示すことを明らかにするとともに、アルミニウムのバンド間遷移とプラズモン共鳴が相互作用することによりスペクトルの広帯域化と散乱によるロスを低減する効果があることを明らかにした。これらは、当初予定していなかった研究成果であり、光アンテナ構造設計の最適化を行う上で意義深い。特筆すべき点は、酸化チタン単結晶基板の代わりに、チタン酸ストロンチウム単結晶基板を用いて、表面に金ナノ構造、裏面にオーミック接触を介して白金を担持すると、金ナノ構造への可視光照射に基づき、基板の表面と裏面からそれぞれ酸素と水素が化学量論的に発生し、プラズモン誘起の水分解が進行することを明らかにした。これは、人工光合成系の構築に成功したと言え、当初の予測を遥かに超える重大な研究成果が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、高精度金属ナノ構造作製技術、高い光電場増強を有する構造設計の最適化、プラズモン-エキシトン強結合状態の分光特性およびそのダイナミクス、光の散乱を抑制するファノ効果の分光特性と光電場増強効果、暗モードプラズモンの光電場増強効果とダイナミクス計測によるメカニズムの解明、界面の構造が光電変換特性に及ぼす効果、および光電変換における電子源について明らかにしてきた。今後は、プラズモン誘起電荷分離により生じる正孔の所在の追跡、最適化された光アンテナ構造を用いた全固体プラズモン太陽電池の構築、およびエキシトンポラリトンの位相緩和過程と光電場増強効果の解明について詳細に検討する。
|