研究課題
1.大きな光電場増強を実現する光アンテナの設計と創成酸化ニッケルをホール移動層とした全固体プラズモン太陽電池の創製に成功した。太陽電池の構成にすべて無機物を使用しているため、30時間以上の安定な光電流発生を確認できた。また、プラズモン誘起電荷分離によって生成した正孔の所在について検討するため、光電流を測定しながらプラズモンの分光計測を行い、金ナノ構造のフェルミ準位の変化を追跡した。その結果、紫外光を電極に照射すると酸化チタンが励起され、価電子帯の正孔が金の電子と結合して金のフェルミ準位が下がるが、金の中の正孔は長時間保持され、水を酸化する能力が無いことを明らかにした。一方、可視光を照射すると、正孔は速やかに水を酸化する。これは、プラズモン誘起電荷分離による水の酸化は、金の電子、または酸化チタン表面準位の電子が励起され、多数の正孔が表面準位にトラップされることにより、水が酸化されるといった、これまで提唱してきたメカニズムが矛盾していないことを示した。2.太陽光を金ナノ構造に強く結合させるナノシステムの開発過渡吸収分光計測系を改良し、各波長での減衰カーブを結合するのではなく、分光器を導入してスペクトル測定と減衰が測定できる系を構築した。これにより、等吸収点での減衰から正確なエキシトンポラリトンの緩和過程を追跡できるようになった。一方、非対称なサイズ・形状の金ナノ構造体をナノメートルのギャップを有して配列した構造の分光特性や光電場増強効果を検討した。光電場増強のアクションスペクトルは2つのシャープなピークを有し、ファノ共鳴波長近傍の短波長側のピークよりも長波長側のピークの方の光電場増強効果が高いことを明らかにした。このピークの分裂は、プラズモン-エキシトン強結合におけるラビ分裂と類似しており、位相緩和時間の異なる暗モードプラズモンと明モードの相互作用によって生じたと考察された。
1: 当初の計画以上に進展している
以下の研究達成項目から本課題が当初の計画以上に進展していると判断した。平成26年度の研究実施項目に沿って、p型半導体をホール移動層として金属ナノ構造/酸化チタン電極上に成膜し、全固体プラズモン太陽電池の構築に成功した。安定性が高く、提案したとおりに、プラズモン誘起電荷分離に基づいて光電流が観測されたのは大きな成果であった。一方、分光電気化学計測を組み合わせて光電流の計測を行うと、電荷分離によって生じた正孔が光電流発生に寄与する現象を説明する上で極めて役立った。これは、当初は考えもしておらず、光電流発生や水の酸化のメカニズムを明らかにする上で極めて重要となる。また、ファノ効果は単なる暗モードプラズモン共鳴が励起されるために、高い光電場増強が誘起されるわけではなく、二つのモード間の相互作用が光電場増強スペクトルのピークを分裂させ、広帯域で高い光電場増強効果を生じさせることを明らかにし、当初の予想を遙かに超える成果となった。さらに、金ナノ微粒子を担持したチタン酸ストロンチウム基板の裏面にルテニウム助触媒を担持して、可視光によりプラズモンを励起すると、裏面から空気中の窒素が還元され、アンモニアが合成できることを明らかにした。このことから、本系は、太陽電池だけではなく、水分解やアンモニア合成など種々の人工光合成系にも展開できることがわかり、当初の予想を遙かに超える研究成果が得られたと言える。
これまでの研究において、高精度金属ナノ構造作製技術、高い光電場増強を有する構造設計の最適化、プラズモン-エキシトン強結合状態の分光特性およびその詳細なダイナミクス、光の散乱を抑制するファノ効果の分光特性と光電場増強効果、暗モードプラズモンの光電場増強効果とダイナミクス計測によるメカニズムの解明、界面の構造が光電変換特性に及ぼす効果、全固体プラズモン太陽電池の構築、および光電変換における電子源やホールの所在について明らかにしてきた。今後は、全固体プラズモン太陽電池の最適化、およびエキシトンポラリトンの光電場増強効果について詳細に検討し、本研究を総括する。
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