研究課題/領域番号 |
23226001
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 義茂 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50344437)
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研究分担者 |
水落 憲和 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (00323311)
三輪 真嗣 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (20609698)
久保田 均 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノスピントロニクス研究センター, チーム長 (30261605)
今村 裕志 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノスピントロニクス研究センター, チーム長 (30323091)
白石 誠司 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30397682)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 磁気共鳴 / ダイオード / スピントルク / 磁気異方性 |
研究概要 |
1. 高性能スピントルク発振器の研究 (a) 実時間発振波形の測定を行った結果, 熱揺らぎによる線幅は2 MHz程度であり,1000を超すQ値が可能であることがわかった.(b) ボルテックス型STOの素子開発をおこない,3 マイクロワットを超える発振出力と約300のQ値を得た.また,高周波電流注入による位相ロックにも成功した. (c) ソンブレロ型STOに面外方向磁界を印加したところ,62.5 GHzの高調波発振が観測され,目標の一つである50 GHzを超えた.また,発振周波数に換算して50 GHzを超える高い垂直磁気異方性を有する薄膜の開発を行った. 2. 超高感度磁場センサーの研究 (a)発振スペクトルの位相検出により磁場感度185 [nT/√Hz]を実験的に確認した。これは、1[mm]の素子に換算すると約20[pT/√Hz]という超高感度となり、位相検出方式が優れていることを見出した。また,各種検出方式における検出感度とスケーリングを解析し、理論的には3 [nT/√Hz]が達成可能であるとの見通しを得た。(b)(111)面方位のダイヤモンド基板上に成長したダイヤモンドにおいて、NVセンターの対称軸が[111]方向に99%以上揃うことを見出した。このことにより、磁気センサーの感度が4倍に向上することが期待される。 3. 超高感度スピントルクダイオードの研究 (a) スピントルクダイオードの高出力化に最適な条件を見出した。(b) 微小磁性体の磁気共鳴を行い小さな粒子ほど大きなスピントルクダイオード出力を出すがダイポール相互作用により線幅が広がることを見出した。(c) 分子系の積層構造を作製し、基板がESR信号に与える影響を見出した。グラフェンに強磁性共鳴を用いた動力学的スピン注入とスピン輸送を試み、世界で初めて分子を介した動力学的スピン輸送に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高性能スピントルク発振器(STO)の研究においては,発振線幅の原因を解明でき,単体素子で3,000を超す高いQ値を得る事に成功した.また,STOの発振周波数を高める取り組みに関しては,当初計画していなかった高調波発振が観測され,最大60 GHzを超す高い発振周波数が観測できた.アレイ化と位相ロックを組み合わせて,発振出力を高める課題に関しては,当初の方針を変えて,ボルテックス型STOを用いることにした.その結果,これまでの素子性能を遙かに超える素子の開発に成功し,位相ロック現象を明確に捉えることができた.以上のように当初の目標に向けて非常に順調に進展している. シミュレーションによりナノコンタクト内の磁壁を利用したミリ波発器を提案した。さらにソンブレロ型発振器における高調波発振出力と軌道との関係を明らかにした。 STO磁場センサでは位相検出により高い磁場感度が得られることを実証した。NVセンターの配向方向の制御に成功し磁場感度の増大を可能とした。 分子のESRやグラフェンへのスピンポンピングの実現により広範な材料系を対象としたスピン輸送の実現、スピンコヒーレンスの測定などを通じた新材料系における高周波スピントロニクスの研究へ発展させる技術面での橋頭堡を確保した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 高性能スピントルク発振器(STO)の研究においては,発振周波数の高周波化,複数STOのアレイ化による高出力化に取り組む.高周波化に関しては,測定系の広帯域化,および,高磁気異方性薄膜の素子化を行う.アレイ化による高出力化に関しては,ボルテックス型STOを用いて交流電流注入位相ロックの実験を行う. ボルテックス型の磁気構造を持つ発振素子の位相同期に必要な条件を理論的に明らかにする。また、ソンブレロ型発振素子における基本波、高調波発振の発振出力制御手法を理論的に提案する。 2. 超高感度磁場センサーの研究においては、位相検波法によるさらなる感度向上に注力するとともに、磁気共鳴を利用した高感度化をも目指す。 3. 超高感度スピントルクダイオードの研究においては、磁気トンネル接合の非線形ノイズを詳細に測り、非線形磁気共鳴の学理を完成させる。常磁性スピンの検出については、分子スピントロニクスにおけるモデル材料であるグラフェンを中心的に用いながら最終的な目標である分子中の常磁性スピンの検出や、分子におけるスピントルク効果の発見を目指す。
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