研究課題/領域番号 |
23226002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阪部 周二 京都大学, 化学研究所, 教授 (50153903)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / 超高速電子線回折 / レーザー加速電子 / フェムト秒高強度レーザー / レーザープラズマ / プラズマミラー / フェムト秒電子偏向法 |
研究概要 |
超高速電子線回折装置に必要不可欠な極短パルス電子線源をレーザープラズマ電子加速により生成する。超高強度短パルスレーザーにより高品位高輝度のパルス電子線を生成するために、初年度にレーザーと薄膜標的との相互作用と発生電子線の諸特性(エネルギースペクトル、放射角度分布)を調べてきた結果、(1)レーザーパルスの裾野(プリパルス)の低減制御が極めて重要であること、(2)金属薄膜標的の場合、面に沿う方向の放射強度が大きいことが判明した。 今年度、まず電子の短パルス化のためにレーザーシステムを再構築し、パルス幅を 130fsから35fsに短縮した。(1)に対して、プリパルスを減じるためにプラズマミラー装置を開発し、3桁のプリパルス低減に成功した。また、ミラーの反射率も約70%を得た。3桁低減、70%反射率は今日まで報告されているプラズマミラーの性能としては最高級のものである。この成果をもとに、プラズマミラー装置を構築しレーザーシステムに導入した。世界でもレーザーシステムにプラズマミラー装置を常設し、恒常的に稼働させている研究機関はほとんどない。(2)の結果を踏まえて、金属細線を標的にすることにより、金属細線方向に指向性の高い電子を放射することを世界で初めて見いだし、メール級長さ金属細線での電子誘導の実証にも成功した。また、これらの電子放射特性研究を発展させるための診断法の開発も行った。電子放射特性は今まで電子放射の空間分布やエネルギースペクトル(~数100keV)を観測するだけであったが、電子線源の特性として重要な線源の空間分布を診断測定するために、エネルギー分解可能な電子結像系のための電磁石型電子レンズを設計し、数ミクロンの空間分解能の電子結像系を試作した。さらに、電子の放射機構を時間分解測定するために、高強度フェムト秒レーザー生成電子を利用したフェムト秒電子偏向法の開発を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた孤立微小固体薄膜標的については、薄膜の自立が極めて困難であることが判明したため、安定定常的な電子線源としては不適切と判断したなどの計画の変更はあったものの、電子線源開発のためのより精緻な研究を行えた、その結果、世界的にみても極めて優れた成果が得られている。(1)高い性能のプラズマミラー装置の恒常的稼働状況は世界でもほとんどなく、(2)金属細線による電子の長距離伝搬の発見は、新しい電子線源の可能性を示唆するだけでなくレーザープラズマ物理においても新たな知見である。(3)高速に変化する電磁場を測定するための、高強度レーザー加速電子を用いたフェムト秒電子偏向法は、高強度短パルスレーザープラズマ相互作用物理実験の革新的な診断法になる可能性をもっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度増力高性能化、短パルス化したレーザーシステムを用いて実験をする。昨年度開発に成功した(1)プリパルス制御のためのプラズマミラー装置を用いる。パルス電子の高輝度化のための要素を明らかにするために発生電子の源の大きさを明らかにし、レーザー加速から放射に至る物理過程を明らかにしなければならない。これらの実験のために、昨年度開発を開始した2つの計測診断法を確立する。(2)発生電子の線源の空間分布をエネルギー分解して測定するための、電磁石型の電子レンズ拡大系(電子顕微鏡)と(3)電子源近傍の電界分布を測定するためのレーザー生成電子を用いたフェムト秒電子偏向法である。(2)については、数10keVから1MeVまでを観測できるものを、(3)については、100fsの時間分解能で測定できるものを確立する。 これらの診断手法を用いて、薄膜(絶縁材料や金属)や金属細線から放射される電子の特性を測定し、高輝度短パルス電子源に最適の標的を見いだすことを計画する。尚、当初計画していた孤立微小固体薄膜標的については、薄膜の自立が極めて困難であることが判明したため、安定定常的な電子線源としては不適切と判断した。それに変わり、金属細線が指向性の高い電子を放出することを世界で始めて見いだした。この金属細線電子線源について更なる詳細を調べる。 今までレーザープラズマ分野における計算機シミュレーションに広く用いられている粒子コードでは我々の実験結果を説明することは出来ない事が明らかになった。ミクロ領域の電子加速過程とマクロ領域の放射過程とが複雑に関係して電子が放射していることが実験で明らかになってきたので、これを検証できる計算機コード開発のための知見を提供するために、シミュレーションを専門とする連携研究者と協力する。電子線源の候補が決まれば、これらを用いた時間分解電子線回折の実証実験も検討する。
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