研究課題
光パラメトリックチャープパルス増幅法に基づく高強度赤外レーザーを用いて、前年度に見いだした、強レーザー場中での光電子散乱に関する実験を展開した。特に、光電子スペクトルの高エネルギー成分に着目し、光電子が加速されて親イオンに衝突する際に弾性散乱することによって、スペクトル形状とその光電場に対するキャリアエンベロープ位相依存性を定量的に説明することに成功した。本手法をもちいることによって、赤外レーザー光源のキャリアエンベロープ位相の長期安定性の測定を行い、47時間にわたって受動的に位相が保たれていることを実証した。これによって、キャリアエンベロープ位相をパラメーターとした新しいアト秒分光手法が発展することが期待出来る。上記の研究活動と並行して、高強度テラヘルツ波を用いた分子のコヒーレント回転制御に関する実験、および、極紫外フェムト秒パルスを用いた固体の時間分解光電子分光実験も行った。テラヘルツ波を用いた実験では、二つの位相相関のあるテラヘルツパルス対を用いることによって、気相分子の回転状態における二準位系コヒーレンスを制御できることを示した。固体の光電子分光実験では、物性研究者との協力の下で前年度に着手した実験を継続した結果、グラフェン中の光キャリア緩和過程の測定と、二酸化バナジウムの光誘起相転移に伴う電子状態の変化を明瞭に観測することが出来た。
2: おおむね順調に進展している
高強度赤外パラメトリック増幅光源の開発はほぼ完了し、応用フェーズに移行した。本光源を用いた原子のイオン化実験において、キャリアエンベロープ位相敏感な光電子散乱という新現象が見いだされた。この現象を利用することにより、光電子散乱を用いた新しいアト秒計測手法が可能となると考えられる。また、極紫外域におけるフェムト秒高次高調波を用いた時間分解光電子分光は凝縮系の電子ダイナミクスについて着実に成果を挙げることができた。高強度テラヘルツ波を用いた分子の回転制御に関する実験は、アト秒分子分光の要素技術と位置づけているが、高強度テラヘルツを用いた分子のコヒーレント制御に関する新手法の有用性を示すことができた。
国際的な競争力を維持しつつ、高強度赤外パラメトリック光源の利用実験(具体的には、極紫外から軟X線領域におけるアト秒ストリーク計測、軟X線領域における時間分解球種分光)を実現させる。また、現在開発中の中赤外域における高強度光パラメトリック増幅光源は、より信頼性の高い構成とすることによって、より高い光子エネルギーにおける軟X線高次高調波発生を目指す。物性応用としては、極紫外域の利用実験をすすめながら、軟X線領域における超高速分光ビームラインの開発を継続し、超短パルス軟X線をもちいた時間分解軟X線分光に挑戦する。
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