研究課題/領域番号 |
23226011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前川 宏一 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80157122)
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研究分担者 |
牧 剛史 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60292645)
半井 健一郎 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10359656)
浅本 晋吾 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50436333)
千々和 伸浩 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (80546242)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | コンクリート構造 / 過剰たわみ / 準平衡 / クリープ / 乾燥収縮 |
研究概要 |
平成24年度は主として以下に上げる3つの項目を中心に研究を行った。 初年度に開発した構成則を用いた実大中層鉄筋コンクリート建物の動的応答解析からは、乾燥収縮が直下型地震に対する構造応答に有意に影響することが明らかになった。これまで乾燥収縮の影響を直接解析に反映することは難しく、影響を別の方法で代表する手法がとられてきたが、本手法によって任意の自然環境条件を直接地震応答解析に反映できる道筋が示された。 コンクリート中の空隙内の熱力学的状態が、不均一に分布する過程を経て解消していく数年間の挙動を分析するための中規模コンクリート試験体を構築した。本試験体は様々な水セメント比のコンクリートの長期時間依存変形挙動の分析、種々の気象作用による影響の分析の他、内部湿度の人為的操作によるたわみ回復操作の実証を目している。供用開始初期における高精度なデータを入手することができた。得られたデータを基に本研究で高度化を試みている熱力学連成解析システムの解析精度を検証したところ、極めて高い再現性有していることが確認された。降雨、降雪による影響の解析への取り込みについても、境界特性値の概略を得ることができた。平成26年度3月に発生したに不審火により計測システムが被災したため、現在、復旧作業を進めている。 浅地中構造物における広範囲のひび割れと過剰たわみの発生についても、初年度に引き続き計測と解析的検討を行った。材料-構造応答連成解析により、周辺地盤の圧密沈下、地盤とコンクリート構造との相互作用、コンクリート中の不均一な水分状態を考慮した解析を行ったところ、構造物の土中深度や埋め戻し土の特性、内空の相対湿度によって過剰なたわみが発生する機構をおよそ明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトは4つのサブテーマから構成されており、それぞれの項目について概ね計画通りの進展が以下のように得られている。 「低中応力域対象のSolidification構成則と中高応力域の非線形時間依存構成則の統合」では、ひび割れを含む様々な寸法の空隙中の水の動きとコンクリートの力学的構成則を連成した。さらに、初年度に完了した熱力学連成解析システムと多方向非直交ひび割れモデルとの連成解析システムに拡張し、ひび割れ内の水分とクラックの運動との連成を考慮したモデルの開発まで進めている。今後は高応力の繰り返し作用と液状水の複合作用を受けるコンクリートへの展開を図る。 「中型PC上部構造模型、地中埋設型RCカルバートの実環境動態計測とマルチスケール解析モデルの検証・改良」においては、予定通り試験体の作成と計測を開始することができた。不審火によって計測が休止状態に追い込まれたが、復旧の目途が立っている。気象作用が与える影響についてのモデルに目途をつけることができたので、次年度以降はこの高精度化を目指す。 「実構造長期過剰変形の実計測とマルチスケール解析による主因特定及びクリープ設計法の抜本的な改正の提案」については、中規模試験体を用いた計測の他、研究協力者の協力のもとに実構造のデータの収集を継続している。地下洞道における現地計測結果とそれを基にした解析から、過剰変形の要因がほぼ絞られ、平成26年度においては、確証を得るための微破壊検査を計画している。 「実橋梁-実地下空間構造の過剰たわみに対する制御方法の提案」については、これまでの解析から内空湿度制御の制御によってたわみが回復可能なことが示唆されている。中規模試験体の復旧を待って実証実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
低~高応力下におけるコンクリートの水分平衡と変形挙動を統合し、ひび割れ内の水分とクラックの運動との連成を考慮したモデルへ向けて開発を進めている。空隙中のキャビテーションの発生を考慮した基本モデルは既に構築済みであり、閉鎖空間中を高速で水が移動する状況下の実験を基に、モデルの高精度化を図っている。また本モデルはひび割れや空隙への膨張生成物の移動を考慮した解析にも応用可能と考えられ、鋼材腐食やアルカリ骨材反応といった、いずれも水に起因した劣化進展予測にも応用し、構成則の一般化を図る予定である。 火災で被災した中規模試験体の復旧の目途が立ち、平成26年6月頃に実験が再開できる見込みである。復旧後の一定期間は、火災による影響や計測停止期間中の推移を見定めるための検証計測期間を設ける必要があり、半年近くの研究計画の遅れが生じると予想される。昨年度の気象データをもとに、この期間の推移を予め予測しておくことでこの検証期間の短縮を図り、続く内空制御によるたわみ回復検証実験を速やかに進める予定である。日射や降雨、降雪が長期時間依存変形に与える影響のモデル化については、配合や寸法、赤外線吸収度を変えた追実験を既に開始しており、モデルの高精度化を図ることとしている。 浅地中構造物の過剰たわみの発生についても、これまでの研究成果から原因機構が絞り込まれており、平成26年5月の微破壊検査による現地調査で確証を得ることが期待される。設計で想定されていない遅れせん断破壊の可能性が予見されており、実構造物調査と合わせてモデル実験体による検証実験を計画している。
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