研究課題
膜リン脂質の脂肪酸組成は食餌由来の脂肪酸などにより絶えず影響を受けているが、生体はそれに応答して、細胞内の脂肪酸代謝系を調節し、脂肪酸組成の恒常性を維持していると考えられる。しかし、現在まで、このような膜脂肪酸環境変化に対する生体応答については分子レベルでほとんど明らかになっていない。申請者は、線虫のPUFA合成変異体におけるマイクロアレイを行い、膜リン脂質中のPUFAが減少すると発現上昇する遺伝子群を同定している。その中の2つ(UPD1,UPD2と命名)の遺伝子のプロモーター領域とGFPを融合させたコンストラクトを持つ線虫は、PUFAが減少するとGFP蛍光を発する。すなわち、膜リン脂質中のPUFAが欠乏すると何らかのシグナルが流れUPD遺伝子を発現上昇させている。この系を利用し、GFP蛍光の消失を指標に網羅的RNAiスクリーニングを行った結果、膜中のPUFAが欠乏すると、「新規MAPキナーゼ経路」、および「小胞体ストレス応答経路」が活性化されていることを見出している。MAPキナーゼ経路については、MAPキナーゼの恒常活性体を発現させたトランスジェニック線虫を確立し、それを利用したMAPキナーゼの上流因子の探索を行った。その結果、約30の上流遺伝子を同定した。さらにMAPキナーゼ経路が熱ストレスによっても活性化することを見いだし、熱ストレス耐性に関与することを見いだした。小胞体ストレス応答経路に関しては、異常タンパク質の蓄積で起こる小胞体ストレス応答とはことなり、転写因子XBP1を介さないIRE1依存的な遺伝子発現誘導がPUFA欠乏下では顕著にみられることを見いだした。またこのIRE1依存的/XBP1非依存的経路が飽和脂肪酸代謝を制御し、PUFA欠乏時の線虫の生存に必要であるを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
膜中のPUFAが欠乏により活性化する「新規MAPキナーゼ経路」、および「小胞体ストレス応答経路」に関して、細胞内シグナルに重要な因子と生物学的意義を明らかにすることができた。これらの結果を基点に、膜リン脂質脂肪酸鎖の恒常性維持の分子機構の解明が更に進むことが期待され、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
今後は、これまでに明らかにしてきた知見をさらに発展させるとともに、膜リン脂質脂肪酸鎖の恒常性破綻による病態とその分子機構の解明に焦点をあて研究を推進していく予定である。
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