研究概要 |
SH3YL1やPSTPIP2などの膜変形活性のあるホスホイノシタイド結合タンパク質の機能解析を引き続き行った。 1. SH3YL1は新たな脂質結合ドメイン、SYLF domainを有しPI(3,4,5)P3と強く結合し,dorsal ruffleに局在した。SH3YL1はPI(3,4,5) 5-phosphataseであるSHIP2と結合し、それらのノックダウンはdorsal ruffleを抑制した。SYLF domain そのものに膜変形活性があり、リポソームを小さなベジクルに断片化した。PI(3,4)P2はdorsal ruffle 形成に必須である事から、SH3YL1はSHIP2をリクルートしPI(3,4)P2を産生させるとともに、膜を変形させてdorsal ruffle形成に関与していると考えられた。 2. PSTPIP2はマクロファージに強く発現し、その変異はマクロファージの異常活性化をもたらすことから、マクロファージの活性化を抑制していると予想された。多くのPSTPIP1を含むF-Barタンパク質がSH3 domainを持つのに対し、PSTPIP2はF-Bar domainのみしかないので、ドミナントネガテイブとしてF-Barの作用を抑制していると考えられる。実際、FBP17のようなF-Bar domain を持つタンパク質はポドソームの膜に巻き付いて、アクチンの重合を促進するのに対し、PSPIP2はその効果を抑制した。 3.PI(3,4,5)P3 5-phosphataseである SKIPはインスリンシグナル特異的に小胞体から膜に移行して、Pak1と結合し、インスリン受容体近辺のPI(3,4,5)P3を分解してインスリンシグナルを負に制御していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画での新たなホスホイノシタイド結合タンパク質、SH3YL1について、SYLFドメインという新しいドメインは今まで見つけられたBar,F-Barドメインがチューブ形成するのに対して、リポソームの断片化を生じた。SH3YL1はPI(3,4,5)P3と特異的に結合するが、SH3YL1はPI(3,4,5)P3の5-phosphataseであるSHIP2とも結合して、dorsal ruffle形成に必須の脂質、PI(3,4)P2産生に関与するなどSH3YL1のdorsal ruffle 形成の詳細な機序が明らかにできた。 F-Bar domainを持つ膜変形蛋白質のPSTPIP2はマクロファージに発現し、その変異が自己炎症を起こす原因タンパク質であることが分かっていた。今回、F-Bar domainを有するタンパク質が膜変形を促進しマクロファージを活性化するのに対し、PSTPIP2はF-Barを有するタンパク質に拮抗的に働いて、マクロファージの異常な活性化を抑制していることを明らかにした。その機序としてPSTPIP2にはSH3domainがないため、膜のホスホイノシタイドを他のF-Barタンパク質と競合するが、SH3domainがないのでそのものは下流にシグナルを遅れず、dominant negative的に働いていることを明らかにし、PSTPIP2欠損で生じる自己炎症性疾患の機序を明らかにできた。 PI(3,4,5)P3 5-phosphatseであるSKIPについて、インスリンシグナルを受けて膜へ移行し、Pak1と結合した後PI(3,4,5)P3を分解してインスリンシグナルを負に制御している機序を解明できた。 このように設定して目標を概ねクリアできている。
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今後の研究の推進方策 |
最初に設定したSH3YL1の膜変形作用とdorsal ruffle 形成への機序についてとPSTPIP2のマクロファージ活性制御機序についてほぼ明らかにできたので、今後は我々が見つけた細胞の外に向けて突起を形成するI-Bar domainを持つIRSp53の膜突起形成機序、特に腎臓上皮細胞における極性形成とmicrovilliの形成への関与と機序について、どのようなタンパク質と結合してmicrovilliに局在するのかなど明らかにする研究に移行する。すでに、IRSP53はmicrovilli形成に必須であることは確かめてある。 PI(3,4,5)P3 5-phosphataseであるSKIPに関しては如何にしてインスリンシグナル特異的に制御するのかの機序を更に詳しく解明する。特にインスリンシグナルを受けて如何にして小胞体から細胞膜へ移行するのか? また膜に移行しPak1と結合した後どのようしてインスリンシグナルを特異的に阻害するのかを明らかにする。
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