研究概要 |
ホスホイノシタイドの膜でのダイナミックな機能の解明には時空間的にホスホイノシタイドがどのように制御されているかを明らかにする必要がある。今年度はSKIPとSac1の制御機構について明らかにした。 1. SKIPによる特異的なインスリンシグナル制御 インスリン情報伝達特異的にシグナルを負に制御するPI(3,4,5)P3 5-ホスファターゼ、SKIPが何故インスリンシグナル特異的にPI(3,4,5)P3の時空間制御を行なえるのかを調べた。その結果、無刺激時にはSKIPは小胞体中でGRP78と結合し、活性の無い状態に保たれているが、インスリン刺激を受けると細胞膜へと移動し、GRP78と離れてPak1と結合する。その結果インスリン受容体近くで産生されるPI(3,4,5)P3を時空間特異的に分解できるので、他のホスファターゼと異なり、インスリンシグナルを特異的に制御出来ることを明らかにした。SKIPは筋肉で高く発現しているため、筋肉での糖代謝、エネルギーに重要な役割を果たしている。実際にSKIPをノックダウンした筋培養細胞ではインスリンシグナルで重要なキナーゼAkt2のリン酸化が増強し、SKIPの発現は逆にAkt2のリン酸化を抑制した。興味深い事に小胞体ストレスを与えるような高脂肪食投与やob/ob マウスの筋肉に於いて、SKIPやGRP78の発現が上昇していた。 2. Sac1によるゴルジ体のPI4Pの制御 ゴルジ体に存在するSac1 PI4P 4-ホスファターゼのノックダウンにより、MCF-7細胞の細胞間接着が弛み(EMT様現象)、運動能,浸潤能が上昇することを見つけた。Sac1ノックダウン細胞ではゴルジ体のPI4P量が上昇していた。逆にPI4Pを減少させるPI4KIIIβのノックダウンではCadherin-11の細胞間接着部位での局在が増し、浸潤能も低下した。次にゴルジ体でのPI4Pのターゲットを探し、GOLPH3を見つけた。GOLPH3の活性はPI4Pに依存し、EMT/METの制御に関わっていると考えられた。
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