研究課題/領域番号 |
23227005
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
竹縄 忠臣 神戸大学, バイオシグナル研究センター, 講師 (40101315)
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研究分担者 |
伊藤 俊樹 神戸大学, バイオシグナル研究センター, 教授 (30313092)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ホスホイノシタイド / 膜形成 / 脂質結合タンパク質 / ホスホイノシタイド 5-ホスファターゼ / インスリン |
研究実績の概要 |
F-BAR ドメインを持ち、膜変形活性のあるPSTPIP2に目をつけマクロファージ活性化とポドソーム構造形成への役割について明らかにした。FBP17などのF-BARドメインを有するタンパク質がポドゾーム形成に促進的に働くのに対し、PSTPIP2はFBP17蛋白などと拮抗して、抑制的に働く事など明らかにした。この事実よりホスホイノシタイド結合タンパク質PSTPIP2はポドゾーム形成に抑制的に働いて、他のF-BARドメインタンパク質の機能が行き過ぎないようにしている事を明らかにした。 ホスホイノシタイド結合タンパク質SH3YL1の機能と膜変形活性について明らかにした。SH3YL1はSYLFドメインという新たな脂質結合ドメインを有しPI(3,4,5)P3と結合し、ドーサルラッフルの形成に関与する事を示し、膜をベジクル化する膜変形活性はSYLFドメイン中の両親媒性ヘリックスによる事を明らかにした。この作用は両親媒性のヘリックス構造が膜の中に突き刺ささり、膜の断片化を生じることで起こることを明らかにした。 SKIPが何故インスリンシグナル特異的にPI(3,4,5)P3の時空間制御を行なえるのかを調べた。その結果、非刺激下ではSKIPは小胞体中でGRP78と結合しているが、インスリン刺激を受けると膜へ移動し、GRP78と離れてPak1と結合し、インスリン受容体近くで産生されるPI(3,4,5)P3を時空間特異的に分解することを明らかにした。 細胞間接着に関与しているホスファターゼを見つけるべく、23種のホスファターゼのノックダウンを行い、接着に対する影響を見た。ゴルジ体に存在するSac1 PI4P 4-ホスファターゼのノックダウンにより、MCF-7細胞の細胞間接着が弛み、運動能,浸潤能が上昇した。PI4Pというゴルジに存在する一脂質がGOLPH3が細胞膜に移動するのに必須で、細胞膜の接着やがん細胞の浸潤、転移にも関与していることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はホスホイノシタイド結合タンパク質としてSH3YL1やPSTPIP1/2, IRSp53,FBP17などのタンパク質がホスホイノシタイドと結合し、膜の変形活性を持つことを見出した。FBP17とPSTPIP2は拮抗的に働き、FBP17はF-BarドメインでPI(4,5)P2に結合し、膜を変形させ、内側向きの突起形成に関わり、SH3ドメインでN-WASPと結合してアクチン重合を促進して膜変形を促進した。一方、PSTPIP2はF-Barドメインのみでできていて、ホスホイノシタイドに結合してドミナントネガテブ的に働き、PSTPIP2が膜突起形成やアクチン重合化を負に制御することを明らかにした。PDTPIP2の変異が生じているマウスではマクロファージの過剰な活性化や炎症が生じることと併せて、PSTPIP2の炎症抑制における役割は注目に価する。
個々のホスホイノシタイドは時空間特異的に合成、分解が制御され、厳密に特定の時間、特定の部位でその結合タンパク質と接触することで、特異的な機能を発揮する。よって、ホスホイノシタイドの部位特異的な存在や量の厳密な制御は結合タンパク質の機能発現に必須である。そのようなホスホイノシタイドの局所的な調節はホスホイノシタイドホスファターゼによって主に行われている。そのうち、SKIPはPI(3,4,5)P3によって活性化されるインスリンシグナル特異的に働き、負に制御する。SKIPが通常ERに存在し、インスリン刺激を受けて細胞膜へ移行することを見つけた。このようにシグナル特異的に制御されるホスファターゼの発見は初めてであり、糖尿病治療への薬剤開発に役立つと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ホスホイノシタイドの細胞ダイナミズム制御研究において、ホスホイノシタイド結合タンパク質の膜微細構造構築への関与やホスホイノシタイドの時空間制御機序の解明において計画通り進展をしてきた。 本研究計画の最終年度にあたり、これまで行ってきた研究をまとめるべく、膜突起形成のダイナミックな動きに併せてどのように膜変形タンパク質が活性化されるかを明らかにしたい。 またホスホイノシタイドホスファターゼのSKIPの制御機序に関してもインスリンシグナル特異的に膜へ移行し受容体近辺で活性化されPI(3,4,5)P3を効率良く分解するのか、どのような分子が関わって機能制御が行われているのかを明らかにした。さらに、糖尿病治療薬としてSKIPの機能阻害剤の開発を目指したい。
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