研究課題/領域番号 |
23227006
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
吉田 賢右 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (90049073)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2014-03-31
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キーワード | 生体エネルギー変換 / ATP合成 / 酵素の調節 |
研究概要 |
ミトコンドリアATP合成活性の網羅的な測定法(MASC法)を使って300あまりのミトコンドリア局在機能未知タンパク質のノックダウンHeLa細胞をスクリーニングしたところ、遺伝子C2Orf47によってコードされるタンパク質が減少するとミトコンドリアのATP合成酵素の量が顕著に減少することを発見した。C2Orf47は、グルコース飢餓によって発現が亢進し、ミトコンドリア内でオリゴマーを形成するらしい。ATP合成酵素の量を制御する新しい因子である可能性が高い。また、ATP合成酵素に弱く結合しているMLQという機能未知の小さなタンパク質を欠損させたところ、ATP合成酵素の量が顕著に減少した。MLQは、アッセンブリーに必須の因子であることがわかった。 先に阻害作用を失ったイプシロン-サブユニットを持つ大腸菌は、塩濃度の高い環境で死にやすいことを報告したが、同じことを枯草菌について観察すると胞子の産生に支障が出ることがわかった。イプシロン-サブユニットによるFoF1の制御の生理的な役割は、細菌の種類によってまちまちなのである。植物のATP合成酵素は回転子であるγサブユニットの分子内酸化(S-Sの形成)で阻害されることが、in vitroの実験で分かっている。この制御が生きているホウレン草で本当に働いていることを確かめた。夜明けとともにS-Sは還元され、日暮れになるとまたS-Sにもどる。IF1ノックアウトマウスを作製してその表現型を見たところ、意外なことにまったく正常で野生型と区別がつかない。今までIF1については、これがないとミトコンドリアのクリステができないとか、オートファジーが亢進するとか、ヘムができなくて貧血になるとか、さまざまな障害が報告されてきた。しかし、IF1のないマウス個体は正常なので、以前の報告は再検討、再解釈が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
阻害因子IF1のノックアウトマウスがまったく正常に成長し繁殖する発見は、IF1に大きな役割を与える今までのエネルギー代謝制御の研究の方向を変えることになる。そのほかの研究課題についても、進展している。ただし、結晶解析の成功の道が見えていない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)IF1のATP合成酵素阻害のメカニズムについては、1分子操作による回転実験を進めることで、その詳細を明らかにする。新しい制御因子候補C2Orf47は、その制御メカニズムの解明とともに、個体における役割をzebra fishで検定する。IF1ノックアウトマウスについては、さらにいろいろなストレス条件で反応を検定する。また、IF1ノックアウトマウスはガンになりにくい、という予備的な実験を本格的におこなう。 (2)調書に記した課題1「制御機構」と課題2「細胞と個体」については、予想と異なる結果もあるが、目的は達成しつつある、と考える。しかし、ATP合成酵素(FoF1)の結晶解析は、まだ成功に至る道は見えていない。この研究を担当していた博士研究員は残り研究期間中にゴールに達するのは困難と考えて、2013年3月によそに移動した。そこで、東京大学の濡木教授と共同研究の形で追究を継続することとして、今までのプロトコールと試料を渡した。上記は好熱菌由来のFoF1の結晶化であるが、一方、ウシのFoF1の簡便な精製法を確立し、東京工業大学の村上教授と共同研究の形で結晶化を開始した。
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