研究課題/領域番号 |
23228001
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
鈴木 幸一 岩手大学, 研究交流部, 特任教授 (20003791)
|
研究分担者 |
御領 政信 岩手大学, 農学部, 教授 (80153774)
品田 哲郎 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (30271513)
寺山 靖夫 岩手医科大学, 医学部, 教授 (70146596)
吉岡 芳親 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任教授 (00174897)
|
研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
|
キーワード | 昆虫バイオテクノロジー / 昆虫機能利用 / 有用物質生産 / 養蚕 / 生物有機化学 / 脳神経 / 脳神経疾患 |
研究概要 |
カイコ冬虫夏草ハナサナギタケ(Paecilomyces tenuipes)の熱水抽出物から、海馬修復因子の有力候補としてアストロサイト増殖能を有する新規物質を単離構造決定することに成功した。バイオアッセイ系としては、新生児マウス大脳神経細胞初代培養より得られたアストロサイトを培養し、その増殖促進活性と特異的な免疫組織染色(GFAP抗体陽性反応)を指標にすることで確立することができた。 作用メカニズムとして、新規物質にはアルツハイマー症医薬品として最も効果的なドネぺジル(塩酸)のようなアセチルコリンエステラーゼ阻害活性が認められないこと、ならびにアストロサイト増殖活性のポジティブコントロールとして使用したパーキンソン病治療薬ゾ二サミドよりも高い活性を示すことから、従来にないオリジナルな新規の作用が期待できる。また、新規物質が2%含有する精製途中の画分(F3)を培養アストロサイトに添加し、次世代DNAマイクロアレイによる活性化遺伝子群と抑制化遺伝子群の解析を行い、現在データの解析中であるが、作用メカニズムに関する新しい情報が期待できる。 さらに、伝承食品としてカイコ冬虫夏草ハナサナギタケの市場は形成されているが(日本、中国、韓国)、その安全性試験に関しては、チベット産のCordyceps sinensis, C. guangdongenesis などでは報告されているにも関わらず、カイコ冬虫夏草ハナサナギタケではその知見が見当たらない。そこで熱水抽出物の急性毒性についてはマウス、亜慢性毒性についてはラットを用いて、行動・摂食・体重、各種血液パラメーター、病理組織の解析結果、初めて安全性を確認することができた。 一方、乾燥末カプセル薬剤のヒト試験は終了しヒト試験の新しいステージを目指して、神経疾患モデルマウスの病態とMRIによる画像解析を対応させることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1. 海馬修復因子の同定とメカニズム: 昆虫・カビ起源の冬虫夏草から、これまで多くの生物活性分子が同定されているが、海馬修復因子の有力候補物質として新規物質を同定した意義は大きい。特に、脳における神経細胞の割合は20~30%で、グリア細胞の割合は70~80%であることから、グリア細胞の1種のアストロサイトが神経回路の制御に重要な役割を果たしていると考えられている。すなわち、本研究で単離構造決定した新規物質は、アストロサイトの増殖促進という機能を有しており、脳科学における新しいツールになることを提案している。 また、パーキンソン病の治療薬であるゾ二サミド(Zonisamide)はアストロサイト増殖活性を有しているが、新規物質がその10倍以上の活性であり、しかもアルツハイマー症の多くの治療薬がアセチルコリンエステラーゼ阻害を標的としているが、新規物質にはこの阻害活性が認められないことから、医薬品候補としてのポテンシャルが期待できる。 2. ヒト試験への応用開発: 出口としてヒトへの応用開発があり、脳機能向上の食品開発と認知症医薬品候補物質の提案を目指している。前者に関しては、すでにL社から開発販売された。後者に関しては、カイコ冬虫夏草ハナサナギタケ乾燥末カプセル薬剤をアルツハイマー症被験者に投与し、症例数が少ないが、骨髄中のアセチルコリン濃度が有意に上昇し改善効果が確認され成果について論文投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 海馬修復因子の公表からメカニズムの解明: 2.5年を要した海馬修復因子の有力候補としての新規物質の単離精製、構造、生理活性について論文化する。また、マウス実験として遺伝的老化マウス(SAM-P8)と正常老化マウス(SAM-R1)に単離精製物を経口投与し、記憶学習効果の行動実験、海馬組織の病理解剖、アンチエイジング効果、次世代DNAマイクロアレイの解析により、メカニズムを明らかにする。 2. 医薬品候補物質としての提案: このメカニズムを基盤とした新しい医薬品候補物質を提案する。 3. ヒト試験: 前年度までに9~10人規模のヒト試験を達成し、第2ステップとして100人規模のヒト試験を計画してきた。しかし、新規物質が明らかになった点を考慮し、しかもわが国においては代替補完医療が認められていない点を背景にすると、100人規模のヒト試験は無駄になると考えられる。そこで症例数が少ないにしろ、カイコ冬虫夏草ハナサナギタケの乾燥末カプセル薬剤投与による医学的なエビデンスがあることから(論文投稿中)、大きな進展を目指した新プロジェクトへの挑戦が最適であると考えられる。そこで、新規物質が高濃度に含まれるサンプル作製と医療現場でのそのヒト試験を実施するために、新たに膨大な研究費確保を前提とした計画について推進中である。
|