研究課題
炭素-窒素結合分解・合成酵素群の中で、(他の酵素に関しては継続して研究を進めているが)現在、特にC-N三重結合合成酵素アルドキシムデヒドラターゼ(以下OxdA)の触媒反応機構、および細胞壁合成に関与する酵素による有用物質生産に関して得られている成果について以下に記載する。OxdAによるC-N三重結合形成反応において重要なS219の変異酵素S219Aのラマンスペクトル測定を行った結果、S219の役割は一般塩基触媒と考えられた。しかし、一般的にセリンは単独で求核剤として機能できず、S219に求核性を与えるアミノ酸残基の存在が不可欠である。Q221のみがS219に求核性を与える可能性のあるアミノ酸残基であるが、Q221変異酵素の酵素活性はほとんど減少しなかったため、S219は一般塩基触媒として働かないと結論付けた。S219とH320だけが基質を直接攻撃できる位置に存在するので、H320は一般酸触媒としてだけではなく、一般塩基触媒としても機能することが示唆された。OxdAの結晶構造情報およびOxdA変異体の特徴付けにより、(i) H320は酸-塩基触媒として働き、(ii) R178はH320のイミダゾール環の求電子性を強め、(iii) S219は基質を固定し基質の水酸基の塩基性を増加していることを明らかにし、これらが関与するアルドキシムデヒドラターゼの反応機構の全貌を解明した。グラム陽性菌細胞壁のテイコ酸のD-アラニル化に関わる初発酵素はチオエステル結合形成反応を触媒するが、D-アラニンとL-システインを基質として反応させたところ、反応産物をD-アラニンとL-システインのジペプチドと同定し、本酵素がペプチド(C-N)結合形成能も示すことを発見した。
2: おおむね順調に進展している
炭素-窒素結合合成酵素アルドキシムデヒドラターゼの結晶構造情報および種々の変異酵素の各種生化学的解析により、C-N三重結合を形成する反応機構の全貌を世界で初めて解明し、反応機構モデルを提唱することができた。さらに、本来はチオエステル結合形成反応を触媒する酵素(グラム陽性菌細胞壁のテイコ酸のD-アラニル化に関わる酵素)がペプチド(C-N)結合形成能も示すことを発見し、本酵素を用いて有用物質であるジペプチドを酵素合成できることを実証した。新規炭素-窒素結合切断酵素を保持する微生物についてもこれまでに取得した候補株を同定するとともに、分解産物を同定し、分解経路を決定した結果、本分解反応を触媒する酵素の報告例はこれまでになく、新規C-N結合切断酵素であることが強く示唆され、おおむね順調に進展している。
新規炭素-窒素結合切断酵素を保持する微生物から、新規炭素-窒素結合切断酵素を単離精製し諸性質を解明する予定である。既存のC-N結合切断酵素や、大量精製が可能となった新規C-N結合切断酵素については結晶化・X線構造解析によって3次元構造を解明する。立体構造から得られる情報等を基に、活性中心と予想されるアミノ酸残基を対して部位特異的変異法により変異酵素を作成し、活性測定等を行うことで活性アミノ酸残基を同定する。本来はチオエステル結合形成反応を触媒する酵素によるペプチド(C-N)結合形成反応についても、様々なペプチド合成を試み、新規なタイプのペプチド合成法として提唱を行う。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 110 ページ: 2810-2815
10.1073/pnas.1200338110
http://www.microbes.agbi.tsukuba.ac.jp/kobayashi/