研究課題/領域番号 |
23228004
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研究種目 |
基盤研究(S)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西原 真杉 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (90145673)
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研究分担者 |
長谷川 成人 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能分野, 参事研究員 (10251232)
根建 拓 東洋大学, 生命科学部, 教授 (50375200)
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キーワード | 脳・神経 / 成長因子 / 神経変性 / 神経新生 |
研究概要 |
本研究は、脳内における神経細胞の増殖、分化、細胞死等の制御に関わるプログラニュリン等の成長因子の生理作用に関する基礎的研究と、その遺伝子変異による神経変性疾患等の発現に関する神経病理学的な研究を融合させ、神経細胞の生存と変性を制御する成長因子の作用の分子機構を明らかにするとともに、病態発現機構の解明に資することを目的としている。外傷性脳傷害モデルを用いた解析により、脳に傷害が起こったときに傷害部位に集積するCD68陽性の活性化ミクログリアでプログラニュリンが産生され、このプログラニュリンがミクログリア自身の過剰な活性化やTGFβ1シグナルを抑制することにより、酸化ストレスや血管のリモデリング、アストログリオーシス等の炎症反応を制御していることが示された。また、成熟動物の海馬歯状回における走行運動による神経新生の促進は、プログラニュリンを介していることが示唆された。一方、臨床病理型が異なる前頭側頭葉変性症の患者脳脊髄内のTDP-43の解析を多数例について行い、蓄積するTDP-43の生化学的違いを検討するとともに、新しい凝集核依存的な細胞内TDP-43蓄積モデルを構築した。このモデルにおいて、細胞内に導入した不溶化TDP-43を凝集核として野生型の全長TDP-43が細胞内で蓄積することにより細胞死が引き起こされることが示唆された。さらに、培養神経前駆細胞を用いて神経細胞の増殖、分化、細胞死に対するプログラニュリンの作用の解明を試みた結果、プログラニュリンはGSK3βの不活性化を介して神経前駆細胞の増殖を促進するという生理活性を持つことが示された。プログラニュリンは以上のような神経炎症抑制作用や神経新生促進作用を介して神経保護作用を発揮していることが示され、プログラニュリンのこのような神経保護作用が神経変性疾患を抑制する一つの機序となっていることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の交付申請書では、プログラニュリン遺伝子欠損動物を用いたプログラニュリンの脳内における生理作用の解析、神経変性疾患脳を用いたTDP-43の生化学的特性の解析、および培養神経前駆細胞を用いたプログラニュリンの細胞内情報伝達機構の解析を主要な目的としていた。プログラニュリンの脳内における生理作用については、外傷性脳傷害モデルを用いた解析によりプログラニュリンが神経炎症を抑制することや、走行運動による神経新生を仲介していることなどが明らかとなり、プログラニュリンの神経保護作用に関する研究が大きく進展した。神経変性疾患脳を用いた解析ではTDP-43の様々な部位に対する抗体を作製して蓄積タンパク質の領域や構造の解析を行なうとともに、細胞内TDP-43蓄積モデルを構築して神経変性を誘起するTDP-43の蓄積機構を見出した。培養神経前駆細胞を用いた解析では、プログラニュリンはGSK3βの不活性化を介して神経前駆細胞の増殖を促進するという新しい細胞内情報伝達機構が明らかとなった。以上のように、当初計画していた研究目的はほぼ達成されており、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、プログラニュリン遺伝子欠損マウスを用いたプログラニュリンの脳内における生理作用の解析をさらに進めるとともに、本マウスの海馬等における遺伝子発現の網羅的解析を行い、神経新生や行動における本マウスの表現型を規定している遺伝子群の特定を目指す。また、分裂終了細胞かつ興奮性細胞から構成され、組織の修復が体性幹細胞に依存するなど脳との共通性の高い筋組織にも着目し、その恒常性維持機構の解析を行う。さらに、神経変性疾患脳およびモデルマウスの脳を主に生化学的手法および免疫組織化学的手法により解析し、TDP-43の蓄積および神経変性の分子メカニズムの解明を目指す。また、TDP-43あるいはアミロイド前駆体タンパク質(APP)の遺伝子導入マウスとプログラニュリン遺伝子欠損マウスのハイブリッドマウスの作成を試みる。一方、培養神経幹細胞や各種株化神経細胞を用いた解析では、プログラニュリンの細胞内情報伝達機構をさらに追究するとともに、その神経細胞の増殖や分化に対する作用機序を検討する。さらに、細胞レベルにおけるストレス応答性におけるプログラニュリンの役割についても解析を行なう。これらの研究により、プログラニュリンの生理的意義や作用機構の解明を目指す。
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