研究課題/領域番号 |
23228004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西原 真杉 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (90145673)
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研究分担者 |
長谷川 成人 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能分野, 参事研究員 (10251232)
根建 拓 東洋大学, 生命科学部, 教授 (50375200)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 成長因子 / 神経変性 / 神経新生 |
研究概要 |
本研究は、脳内における神経細胞の増殖、分化、細胞死等の制御に関わるプログラニュリン等の成長因子の生理作用に関する基礎的研究と、その遺伝子変異による神経変性疾患等の発現に関する神経病理学的な研究を融合させ、神経細胞の生存と変性を制御する成長因子の作用の分子機構を明らかにするとともに、病態発現機構の解明に資することを目的としている。外傷性脳傷害モデルを用いた解析により、プログラニュリンはCD68陽性の活性化ミクログリアで産生されてリソソーム関連タンパク質の過剰な生合成を抑制すること、またプログラニュリン遺伝子欠損マウスでは変性神経細胞数の数が増加していることが明らかとなり、プログラニュリンの神経保護作用にリソソームが関与していることが示唆された。また、網羅的遺伝子解析により、Msi2、C1qc、Dcd等の遺伝子がプログラニュリンの作用発現に関与していることが示唆された。さらに、プログラニュリン遺伝子欠損マウスとTDP-43遺伝子導入マウスあるいはアミロイド前駆体タンパク質(APP)遺伝子導入マウスとのハイブリッド個体など新しい動物モデルを作出した。また、筋前駆細胞においてもプログラニュリンが発現し、その分化能に影響を与えていることを見出した。一方、病理型が異なる前頭側頭葉変性症の患者脳脊髄では蓄積するTDP-43のC末端断片のバンドパターンが病理型に一致して異なること、また1つの細胞で生じた異常TDP-43がプリオンと同様に他の細胞に広がることで脳脊髄内に伝播することが示唆された。また、培養神経前駆細胞を用いた解析により、プログラニュリン遺伝子欠損マウス由来の細胞ではSIRT1の発現が上昇していること、マウス海馬由来神経細胞HT22細胞を用いた解析により酸化ストレスによりプログラニュリンの発現が上昇し、Erk1/2の活性化を介して神経保護作用を発揮していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の交付申請書では、プログラニュリン遺伝子欠損動物を用いたプログラニュリンの脳内における生理作用の解析と本マウスの海馬における遺伝子発現の網羅的解析、神経変性疾患脳を用いた病理生化学的解析とTDP-43の蓄積機構の解析、および培養神経細胞を用いたプログラニュリンの細胞内情報伝達機構の解析と細胞レベルにおけるストレス応答性におけるプログラニュリンの役割の解析を主要な目的としていた。プログラニュリン遺伝子欠損動物を用いた解析では、プログラニュリンは活性化ミクログリアで産生されてリソソーム関連タンパク質の過剰な生合成を抑制すること、また網羅的遺伝子解析によりプログラニュリンの作用発現に関与していると考えられる遺伝子を同定した。また、病理型が異なる前頭側頭葉変性症の患者脳脊髄では蓄積する異常TDP-43が病理型に一致して異なること、また1つの細胞で生じた異常TDP-43が他の細胞に広がることで脳脊髄内に伝播することなど示唆され、異常TDP-43の伝播様式に関する研究が大きく進展した。さらに、培養神経細胞を用いた解析によりプログラニュリンの作用はErk1/2の活性化を介すること、酸化ストレスによりプログラニュリンの発現が上昇することなどが明らかとなり、プログラニュリンの細胞内情報伝達機構の解析やストレス応答性におけるプログラニュリンの役割二関する研究も進展した。以上のように、当初計画していた研究目的はほぼ達成されており、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究により見出されたプログラニュリンの新しい機能として、リソソームの生合成の制御に着目した研究を展開する。また、海馬における遺伝子の網羅的発現解析を行い、プログラニュリンの下流にあると考えられる遺伝子を同定できたため、本マウスの表現型を規定している遺伝子群の作用機序の解明を目指す。さらに、本年度の研究で筋前駆細胞においてもプログラニュリンが発現していることを見出したため、分裂終了細胞かつ興奮性細胞から構成され、組織の修復が体性幹細胞に依存するなど脳との共通性の高い筋組織にも着目し、その病態発現機構も視野に入れた研究を行う。プログラニュリン遺伝子欠損マウスとTDP-43遺伝子導入マウスあるいはアミロイド前駆体タンパク質(APP)遺伝子導入マウスとのハイブリッド個体など新しい動物モデルを用いた研究も推進する。神経変性疾患脳に蓄積する異常タンパク質であるTDP-43をプログラニュリン遺伝子欠損マウス、TDP-43遺伝子導入マウス等に接種することで異常TDP-43病理を再現することができるかどうか検討するとともに、TDP-43の線維化に必要な部分配列を同定してその合成ペプチドを線維化させ、細胞やマウスに接種する検討を行う。一方、本年度の研究によりプログラニュリン遺伝子欠損マウス由来の培養神経幹細胞ではSIRT1の発現が上昇していることが明らかとなったため、その生理的意義の解明を目指すとともに、プログラニュリンの受容体候補としてソルチリンが注目されているため、その役割についても解析を試みる。そして、研究代表者と研究分担者で動物モデルをシェアーしたり研究成果を相互に活用し、研究者間の協力体制をより深めていく予定である。
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