研究課題/領域番号 |
23229001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堅田 利明 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (10088859)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 生体分子 / Gタンパク質 / Gサイクル |
研究実績の概要 |
本研究では、これまでに解析の進んだG蛋白質とは異なり、細胞質でsmgGDSとの複合体として存在するRasファミリーのDi-RAS、細胞内膜系で機能するArfファミリーのARL8とSAR1、さらにヘテロ二量体G蛋白質のRAGを対象として、G蛋白質の新しい存在様式とユニークなGサイクルの作動・制御機構の分子基盤を解明する。精製蛋白質を用いた生化学的解析から、遺伝子導入やノックダウンによる細胞レベルでの分子生物学・細胞生物学的解析、さらにモデル生物(線虫、マウス)の遺伝子破壊による個体レベルの解析まで、諸種の階層で統合的に研究を進めて以下の知見を得た。 1.Arl8bノックアウトマウスは、初期胚発生期において、胎仔体長の縮小や卵黄嚢内胚葉細胞内のLAMP1陽性小胞が異常蓄積する表現型を認めた。これらの原因として、母胎由来の蛋白質が内胚葉細胞内リソソームで分解されずに、胎仔側への栄養供給が低下する可能性が示された。さらにArl8b欠損では、脳の発生が遅延し、これは背側正中線の異常に由来することが見出された。 2.線虫変異体を用いた解析から、リソソームに局在するG蛋白質raga-1とragc-1がアミノ酸に応答した生殖幹細胞や神経芽細胞の静止期からの活性化に介在することが示された。また、各種変異体やRNAiを用いた遺伝学的相互作用の解析により、Ragはインスリン経路やAMPKの下流で機能し、その一方でmTORC1の上流で機能することが示唆された。さらに酵母2ハイブリッド法を用いて、線虫Rag/Ragulatorの相互作用因子群の探索に着手し、いくつかの候補因子を単離した。 3.VII型コラーゲンを小胞体から分泌経路へと送り込む積み荷受容体として、SAR1-GEF のSec12とTANGO1-L/cTAGE5からなる約1 MDa複合体に加えて、Sec12とTANGO1-S/cTAGE5からなる約750 KDa複合体を見出し、それらが独立して機能する可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示したように、本研究で解析対象としたG蛋白質群において、それらの活性調節因子群と新しい機能をいくつか見出せたことは大きな進展である。共同研究から、Di-RASと複合体を形成するsmgGDS単体でのX線結晶構造が決定され、複合体構造での解析も進めば、存在様式とヌクレオチド結合特性がユニークなDi-RASのGサイクル制御に関わる分子基盤の解明に繋がる。 Ragが介するアミノ酸シグナルの研究は主に培養細胞を用いて研究が展開されてきた。しかしながら、生体内でどのような細胞現象が、生理的なアミノ酸濃度の変化に応答しするか不明な点が多い。その観点で、線虫で幹細胞や前駆細胞がアミノ酸に応答し静止期から活性化すること、そのアミノ酸要求性をRagの恒常活性化体がバイパスできることの発見は、生理的に重要なRagの活性調節因子群を同定するための有力なバイオアッセイシステムとして活用できる。 他方、コラーゲンを小胞体から分泌経路へと送り込む積み荷受容体として、SAR1-GEFであるSec12を含む2種の複合体の存在を見出しており、Gサイクルの時空的起動制御の視点から興味深い成果と考える。 ヒト疾患との関連では、共同研究からこれまでにRhoファミリーG蛋白質のRHOAとRAC1について、がん化に導く遺伝子変異が、グアニンヌクレオチド交換反応を恒常的に促進してGTP結合型に転換させることを見出した。これまでは、Rasファミリーに代表されるG蛋白質の遺伝子変異で、GTPアーゼ活性の消失・減少に起因するがん化が報告されていたが、本研究でのRHOAとRAC1の点変異体は別のメカニズムによるもので、同じく本研究で解析対象としたユニークなヌクレオチド結合特性をもつDi-RASの様相と酷似しており、興味深い知見である。
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今後の研究の推進方策 |
新奇G蛋白質のGサイクル(グアニンヌクレオチド結合やGTPアーゼ活性)動態を変化させるものを、引き続き培養細胞やラット組織の抽出液から探索する。モデル動物において遺伝子欠損で見出された諸種の表現型が、個々のG蛋白質の機能とどのように関連しているかの解析を進める。 線虫Rag/Ragulator相互作用因子群の欠失変異体を作出し、raga-1、ragc-1の欠失変異体あるいは恒常活性化変異体の表現型と比較することで、それらの生理的機能を検証する。さらに、それらによってRagのGサイクルが調節される分子基盤を、生化学的解析手法も用いて解明する。 小胞体からの積み荷受容体として機能するTANGO1-L・S/cTAGE5/Sec12複合体については、コラーゲン小胞の出芽・輸送の各段階において、その構成分子がどのように変動し、またSAR1のGサイクル制御とどのように関連するかについて、さらに解析を進める。
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