本研究では、これまでに解析の進んだG蛋白質とは異なり、細胞質でsmgGDSとの複合体として存在するRasファミリーのDi-RAS、細胞内膜系で機能するArfファミリーのARL8とSAR1、さらにヘテロ二量体G蛋白質のRAGを対象として、G蛋白質の新しい存在様式とユニ ークなGサイクルの作動・制御機構の分子基盤を解明する。精製蛋白質を用いた生化学的解析から、遺伝子導入やノックダウンによる細胞レベルでの分子生物学・細胞生物学的解析、さらにモデル生物(線虫、マウス)の遺伝子破壊による個体レベルの解析まで、諸種 の階層で統合的に研究を進めて以下の知見を得た。 1.Arl8bノックアウトマウスは、初期胚発生期において、胎仔体長の縮小や卵黄嚢内胚葉細胞内のLAMP1陽性小胞が異常蓄積する表現型を認めた。これらの原因として、母胎由来の蛋白質が内胚葉細胞内リソソームで分解されずに、胎仔側への栄養供給が低下する可能性が示された。さらにArl8b欠損では、脳の形成不全が観察され、これは背側正中線の異常に由来することが示唆された。 2.特定のアミノ酸をセンシングしRagタンパク質の活性を調節する因子群を単離同定するべく、MetやPheといったアミノ酸欠乏条件下で神経前駆細胞の活性化が見られる変異体をスクリーニングし単離することができた。これらの原因遺伝子群はそれぞれのアミノ酸をセンシングしRagタンパク質の活性を調節する因子群をコードする可能性がある。 3.コラーゲンを小胞体から分泌経路に送り込む積み荷受容体複合体として見出したTANGO1/cTAGE5/Sec12は、Sec12を介したSar1の活性化を効率的に促進することでコラーゲンの分泌に関与することが認められた。巨大分子の分泌には、通常の分泌に比べてより効率的なGTPアーゼSar1の活性化が必要であることが示された。
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