研究課題/領域番号 |
23229003
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
成宮 周 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70144350)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2014-03-31
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キーワード | Rho / mDia / アクチン細胞骨格 / 組織恒常性 / 組織構築 / シナプス可塑性 / T細胞シグナリング / 細胞質分裂 |
研究概要 |
アクチン細胞骨格は細胞の形態、接着、移動、増殖に大きな役割をなしているが、これが個体の組織でどう働いているかは不明な点が多い。本研究では、Rhoの下流でactin重合因子として働いているmDiaを対象として、3種のmDia isoformの遺伝子欠損マウスを用い、それが形成するアクチン細胞骨格の組織構築、組織恒常性、組織可塑性における働きを明らかにする。本年度は、① mDia1/3による行動とシナプス可塑性の制御をmDia1/3コンディショナル欠損マウスとmDia1/3欠損海馬初代培養神経細胞で検討し、前者で社会隔離ストレスによる不安様行動の惹起が減弱していること、後者でシナプス終末でのシナプス小胞の分布が変化することを見出した。また、② 作出したmDia2欠損マウスを用い、in vivoの組織における細胞質分裂でのmDia2の役割を検討しmDia2欠損マウスが胎生12.5日以降致死であること、この末梢血では多核赤芽球が増加していること、胎児肝臓由来の細胞を用いた赤芽球分化誘導系で、mDia2欠損細胞は細胞質分裂に失敗する事を見出した。更に、③ mDia1/3欠損マウスで見出した胸腺リンパ球発達以上を解析し、これがCD4+CD8+T前駆細胞からCD4+T細胞とCD8+T細胞への増殖分化の障害にあること、これがmDia1/3欠損細胞でのT細胞レセプターを介したシグナル伝達の減弱による事を見出した。更に、細胞レベルの研究として、細胞質分裂におけるCitron kinaseの役割を解析し、Citron-Kが分裂溝の収縮を細胞間橋での切断に繋ぐ因子として機能している事を明らかにした。また、mDiaが張力解除時に起こるアクチン線維形成のmechanosensorとして働いている事、この場合のmDiaの活性化は張力解除時におこるアクチンモノマーの局所濃度増加による事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画のいくつかは、すでに達成して論文として発表済みである。また、加えて新たな知見を基に当初計画になかった研究を立ち上げ実施中である。更に、培養細胞を用いた実験でも新知見を得て3つの論文を発表した。一方、当初掲げた計画中で遅延しているものについては、対策を考え実施中であり、今後達成されるものと考えている。このことから、研究は順調に進展しており、予定通りの結果を見込んでいる。これまでの結果では、tangential migrationの研究などは予期せぬ結果であったが、全体として当初目標の達成に留まっている。今後、シナプス形成、TCRシグナリング、細胞質分裂などで、本質的に新しい結果がでれば、当初の目標を超える進展があったこととしたい。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画からの変更点は2つある。一つは、DMBA/TPAによる皮膚発ガン実験で研究申請時に観察していたmDia1欠損マウスの野生型とヘテロ、ホモ欠損のlittermates間における発生腫瘍数の差が観察できなくなったことである。これはマウスの遺伝背景が変化してきたことが原因と考えられることから、このモデルでの腫瘍形成の再現性の良いmDia1欠損マウスをFVBマウスに戻し交配中である。二つ目は、mDia1/3欠損マウスのホモ欠損体の繁殖率が低下してきたことである。このため、当初計画していたmDia1/3二重欠損マウスでの骨髄増殖性疾患のメカニズム解析など多数のマウスを用いなくてはいけない実験は実施不能となった。一方、繁殖力低下の原因を探るために行った解析からmDia1/3欠損マウスにおける精子形成の異常が明らかになった。それで、これをテーマに研究を展開中である。
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