研究概要 |
本年度は、詳細なトランスクリプトーム解析のための基礎情報として神経障害後マウスの脊髄内遺伝子発現情報をDNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析した。術後1、3、10日目に損傷側、非損傷側の遺伝子発現を解析したととろ、STAT3を含む遺伝子群25個で一過性または時間依存的な発現増加が認められた。神経障害性疼痛におけるアストロサイトSTAT3シグナルが細胞増殖を通じて重要であることを我々はラットで示してきたので(Brain, 2011)、マウスでも同様の検討を行ったところ、末梢神経損傷後マウスではアストロサイトの細胞増殖はまったく認められなかった。遺伝子改変マウスを使用して実験を進める必要性から、マウスにおけるアストロサイトの基礎的なデータを集積しなければならないと考えた。現在、マウスでのアロディニアのタイムコース、GFAPの発現増加やアストロサイトの形態的な変化などのデータ収集に務めている。一方、アストロサイトのマイクロダイセクションをするにあたり、アストロサイトに色素を注入した結果、これまでGFAP染色によって観察していたものは単なる骨格に過ぎず、実体はもっと広範囲に突起を張り巡らしていることが分かった。このようなアストロサイトの複雑な形態を考えると、パソコン画面上で領域を指定してアストロサイ,トだけを手動で切り出すマイクロダイセクション法は不適切と考えざるを得ない。今後はセルソーターを用いてアストロサイトを選択的に回収後トランスクリプトーム解析を行うこととした。神経因性疼痛発症時におけるP2X4受容体の細胞内局在の変化を検討した結果,神経因性疼痛に関係が深いCCL2およびCCL12がP2X4受容体のリソゾームから細胞膜分画への移行を促進することがわかった。さらに,その発現増加はCCL2の中和抗体により抑制された。ミクログリアにフィブロネクチンを処置するとCCL2の放出が起こる事もわかり,放出CCL2が自らの受容体CCR2に作用し,P2X4受容体の細胞膜への移行を促進していると考えられる。今後、CCL2を介したアストロサイトとの関係が注目される。
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