研究課題
本年度は、アストロサイト特異的なSTAT3欠損マウスを作製するにあたりGFAP-Creを用いたCre/loxPシステムを利用することにした。レポーターマウスを用いた検討から、GFAP-Creマウスは無処置および神経損傷後いずれの時間帯においてもアストロサイト特異的にCreリコンビナーゼ活性を示すことが明らかとなった。このマウスを用いてアストロサイト特異的STAT3欠損マウスを作製し各種疼痛行動の解析を行ったところ、慢性炎症性疼痛や急性の侵害刺激に対する疼痛行動は野生型のマウスとアストロサイト特異的STAT3欠損マウスで有意な変化は見られなかった。一方で、末梢神経損傷後のアロディニアに関しては、野生型マウスに比べてアストロサイト特異的STAT3欠損マウスで損傷後10日目から有意な回復が見られ、さらに疼痛が元の閾値に回復するまでの期間が短縮していることが明らかとなった。以上の結果から、アストロサイトSTAT3シグナルは神経障害性疼痛への特に維持期への関与が示唆される。今後は、DNAマイクロアレイ解析を用いてアストロサイトSTAT3依存的に変化している因子を特定し、検討を進めていく予定である。脊髄内で発現増加するケモカインシグナル関連遺伝子としてケモカイン受容体CCR5と、そのリガンドとなるケモカインの数種の発現増加に着目し、発現増加をリアルタイムPCRで確認した。その中でケモカインの一つであるCCL3タンパク質をラットの髄腔内に投与したところ、一過性の強い痛み行動と共に、数日持続する痛み行動が観察された。また、CCL3タンパク質に対する中和抗体を髄腔内に前処置することで末梢神経障害後の疼痛形成を抑制することを見出した。今後、アストロサイトSTAT3シグナルとCCL3の関係性が注目される。
2: おおむね順調に進展している
アストロサイト特異的STAT3欠損マウスを利用することにより、我々のラットでの報告(Brain,2011)を支持するようにアストロサイトのSTAT3シグナルは末梢神経損傷後の特に維持期への関与が示唆された。即ちアストロサイトはマウスにおいて細胞分裂は起こしていないが、STAT3の活性化は誘導され、かつ神経障害性疼痛の関与が明らかになったことから細胞増殖以外にSTAT3シグナルを介した疼痛への関与が考えられる。今後、DNAマイクロアレイ解析を用いてSTAT3依存的に変化してくる因子を同定し、研究を進めていくことで、疼痛の特に慢性化メカニズムの解明に至る可能性があり非常に興味深いと考えられる。
今年度の検討から、アストロサイト特異的STAT3欠損マウスの利用により、神経障害性疼痛におけるアストロサイトSTAT3シグナルの重要性が明らかとなった。今回用いたGFAP-Creマウスに関してレポーターマウスを用いた検討から、神経損傷後において脊髄後角の広範なアストロサイトでSTAT3の機能欠損が誘導されていることが示唆される。今後は、STAT3およびマイクロアレイ解析で厳選された候補分子の時系列変化や脊髄後角での発現細胞種およびその分布の解析を進め、Lamina各層のアストロサイトの役割解析へと研究を深化させる予定である。当初の研究計画では、Lamina各層をターゲットとしたCre遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスを作製し検討を進める予定であったが、Lamina特異的なプロモーターを組み込んだウイルスを作製し成体マウスに投与する手法の方が研究スピードも迅速かつ汎用性が高いと考えられるため、現在検討を開始している。この系が確立すればLamina各層アストロサイトのみならず、ミクログリアやニューロンをターゲットとした研究への適用も期待できると考えられる。
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