研究課題/領域番号 |
23229008
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 和秀 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (80124379)
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研究分担者 |
齊藤 秀俊 九州大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90444794)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / アストロサイト / ミクログリア / グリア神経相互作用 / 転写制御因子 |
研究概要 |
昨年度、アストロサイト特異的STAT3欠損マウスでは損傷後10日目から神経障害性疼痛に著明な減弱が見られ、また、正常マウスにアストロサイト特異的に恒常的活性化型STAT3を遺伝子導入することでアロディニアが発症することを明らかにした。そこで今年度は、このJAK-STAT3系シグナルに深く関連する遺伝子を明らかにするために、神経損傷後14日目にDNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、野生型マウスにおいて神経損傷側の脊髄後角において発現増加した64遺伝子中、アストロサイト関連遺伝子の上位5遺伝子が全てアストロサイト特異的STAT3欠損マウスでは発現増加の抑制が見られた。また、神経障害性疼痛モデル動物の脊髄後角では、アロディニア発現の時間経過に呼応してケモカインCCL3とその受容体CCR5の発現増加をリアルタイムPCRで確認した。CCL3をラット髄腔内に投与した結果、投与後1時間目をピークとする初期の痛みがまず発現し、それが消失した後、再度痛みが出現し、これは投与後7日間も持続した。この2相性の痛みのうち、前者の初期疼痛はCCR1阻害剤BX513により抑制され、後者の持続するアロディニアはCCR5阻害剤Maraviroc(抗エイズ薬)によって抑制された。さらに既に形成された痛みに対する効果も、CCR1阻害剤は初期疼痛のみを抑制し、CCR5阻害剤は長期的疼痛のみを抑制した。また、末梢神経障害後のアロディニアはCCL3の中和抗体の髄腔内投与で抑制された。さらにin situ hybridizationを行った結果、CCR1は主に神経細胞に、CCR5はミクログリアに発現することがわかった。CCL3の発現増加が脊髄ミクログリアで確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、神経障害性疼痛発症に脊髄活性化ミクログリアとATP受容体サブタイプP2X4の機能が重要であることを明らかにした(Nature 2003、2005)が、神経障害性疼痛発症維持回復機構におけるミクログリアおよび同時に認められるアストロサイトの活性化メカニズムの詳細、それらの相互関係、そして各グリア細胞種に特異的な疼痛関連分子群の機能と相互影響など、不明の部分が多く残されている。それらの解明を本研究計画で行うために次のような課題を実践している。①アストロサイト特異的に活性化する分子群をトランスクリプトーム解析により同定する。②次に神経障害性疼痛と深く関与する分子群を行動薬理学的に厳選し機能を解析し転写因子STAT3を得る。③STAT3について、ミクログリア活性化との関連性を時系列で解析し、神経障害性疼痛との関係を明確にする。④各種分子欠損動物を作製し、STAT3、MafB等疼痛関連分子について脊髄での痛み神経シナプス伝達における役割を電気生理的手法及び二光子励起顕微鏡により解明すべく、脊髄in vivoイメージング技術を確立する。現在まで、それぞれで重要な知見を積み重ねており、研究は着実に進んでいる。さらに、研究を発展させるための新技術を確立し、当初の計画を発展させる技術の導入も図っている。また、複数個の遺伝子欠損動物を多用しなければならない研究内容であるためにブリーディングやジェノタイピングなどで報われない労力も計画に折り込み、さらに飼育施設の許容範囲ぎりぎりまで利用して研究を進めている。平成26年度には新研究棟が建設され、新しい機能を持った動物舎が利用できるようになるので、研究の進捗度は更に向上するものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
神経損傷後14日目にアストロサイト特異的STAT3欠損マウスを用いてDNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、野生型マウスにおいて神経損傷側の脊髄後角において64遺伝子が発現増加し、そのうちアストロサイト関連遺伝子の上位5遺伝子全てにおいてアストロサイト特異的STAT3欠損マウスで発現増加の抑制が見られた。今後は各遺伝子の機能解析を行い、神経障害性疼痛維持への関与と相互連関、作用メカニズムを明確にする。神経障害性疼痛モデル動物の脊髄後角では、アロディニア発現の時間経過に呼応してケモカインCCL3とその受容体CCR5の発現増加が認められ、今年度の研究により、内因性CCL3の作用はケモカインシグナルを介して長期に亘る疼痛形成に関与していると考えられた。今後はメカニズム解析およびミクログリア-アストロサイト間のケモカインリンクも検証する。更に、神経損傷後きわめて初期に転写因子MafBが脊髄ミクログリアで増加し、MafBの制御で特定分子群の発現増加を促し神経障害性疼痛に関与することをすでに明らかにしていたが、MafB増産メカニズムは不明であった。今回、転写制御あるいは分解過程での制御など様々に検討したが、いずれもMafB増産を説明できる結果は得られなかった。しかし、非常に興味深いことに、予備実験ながら、末梢神経損傷後24時間以内にマイクロRNA miR-152の発現が低下し、それと逆比例してMafBが発現増加することがわかった。今後、その現象の確認と、mir152が脊髄内のどの細胞種で発現して、どこに機能するのかを、エピジェネティックな制御メカニズムを含め、検討する。
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