研究課題/領域番号 |
23229009
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 壽一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90176339)
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研究分担者 |
北尻 真一郎 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00532970)
平海 晴一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10374167)
中川 隆之 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50335270)
坂本 達則 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60425626)
山本 典生 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70378644)
田浦 晶子 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70515345)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 内耳発生 / 内耳再生 / 遺伝難聴 / 網羅的遺伝子発現解析 |
研究概要 |
胎生13日齢マウス蝸牛から単一細胞を単離してRNA抽出、その後cDNA作成してPCR反応を行い、136細胞中、18細胞でハウスキーピング遺伝子のcDNAが合成されていることを確認した。また、生後1日齢Atoh1-GFPマウス蝸牛を摘出し、緑色蛍光を利用した細胞のソートを行い、GFP陽性細胞(つまり有毛細胞)とGFP陰性細胞(蝸牛内の有毛細胞以外の細胞)を単細胞として回収したうえでRNAを調整、cDNAを合成した。次に、次世代シークエンサーを用いてサンプルをシークエンスした(RNA-seq)。対照サンプルとして、同じ動物の蝸牛内線維芽細胞も同様に採取しRNA-seqを行った。GFP陽性細胞、GFP陰性細胞、線維芽細胞のそれぞれの発現遺伝子の発現量を検討した。おおむねGFP+、GFP-、線維芽細胞では発現プロファイルの似通った細胞がそれぞれ得られている。GFP陽性細胞は既知の有毛細胞特異的な遺伝子Myo7aを発現しており、GFP陰性細胞では発現をしていない。これは本実験系の妥当性を保証するものである。 先天性高度感音難聴患者に対する遺伝子解析では、現在人工内耳手術を行った内耳・内耳道奇形を持つ患者10人とその家族サンプルの一部について次世代シークセンサーを用いて解析を開始した。 生後マウス内耳器官培養においてIGF-1(インスリン様成長因子1)が有毛細胞の保護を行う過程で、その下流分子としてNetrin1とGap43があることを示した。 これまで用いられていたマウスではなく、ヒトiPS細胞(201B7株)を無血清培地で一定期間培養し、さらにこれらの細胞群を一定期間bFGFで処理した結果、Six1, E-cadherin共陽性のpreplacodal 様細胞へ分化していることが分かった。さらにbFGF処理後の細胞群でPax2陽性、p63陰性の内耳前駆細胞様細胞の存在が世界で初めて確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在我々は、生後直後のマウス蝸牛において、少なくとも14000の遺伝子のうち、315遺伝子が有毛細胞、有毛細胞以外の上皮細胞、線維芽細胞の間で異なった発現パターンを示しているというデータを得ている。このデータをもとに、有毛細胞が遺伝子によってどのように特徴づけられているのか、を解明することができると考える。また、発生途上の蝸牛においても同様の解析を行っていくことにより、内耳発生の全容の解明という世界に類を見ない解析を完了することができると思われる。 また、哺乳類蝸牛の発生メカニズムの全容の解明は今少しの解析が必要であるために、先行して従来報告されていた蝸牛発生に重要な成長因子IGF-1が、蝸牛有毛細胞への障害付加時の再生や保護にどのようなメカニズムで関わるかを検証したところ、驚くべくことに従来自然には増殖することがないと言われていた生後内耳の支持細胞の増殖が有毛細胞の維持に関わっていることを発見した。 内耳蝸牛の再生を行うには、内在性の幹細胞を活性化することが必要で、われわれが現在見つけようとしている発生に重要な遺伝子の操作もそのような細胞に対して行うことによって効率的に行える可能性が高い。我々は、世界に先駆けて、蝸牛内の幹細胞の位置の候補として、Tympanic border cellを2012年に報告した。その後、米国の他グループからもこの結果を支持する報告がなされた。 これまではマウスの多能性幹細胞を用いた有毛細胞や内耳感覚上皮の誘導が報告されていたが、我々は世界で初めてヒトiPS細胞を用いて無血清にて内耳前駆細胞様細胞を誘導することに成功した。 以上のように、本研究では、内耳発生の解明と再生手法の開発という目標に向かい順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1.網羅的遺伝子発現解析については、現在、生後直後のマウスについて得られているデータを解析しているが、今後は同じ有毛細胞でも、異なった発現プロファイルを持った細胞をクラスタリングの手法で分類し、各種有毛細胞間での違いを遺伝子発現パターンの観点から検証していく。また、発生の各期の蝸牛を材料にサンプルを増やしていき、遺伝子発現パターンの観点で内耳発生を明らかにし、各段階の分化マーカーを同定していく。 2.先天性高度感音難聴患者に対する遺伝子検査については患者数を増やすことによって、今まで報告されていない遺伝子異常を発見するため現在の倍以上のサンプル数の集積を目標に患者のリクルートを進める。 3.1,2の実験によって同定された遺伝子、マーカーの発現部位、時期の確認を形態学的に観察する。さらに、確認が終わった遺伝子の内耳特異的あるいは時間特異的なノックアウトマウス用いて、内耳形態の観察、聴覚機能測定を行い遺伝子の機能を確定する。 4.内耳感覚上皮再生手法の確立のため、これまでの本研究で世界の研究室に先駆けて誘導に成功しているヒトiPS細胞を内耳前駆細胞様細胞に同定された遺伝子の導入あるいは機能阻害を行い感覚上皮への誘導を促す。また、IGF-1で処理されると蝸牛感覚上皮は増殖し細胞死を回避することが判明しているので、IGF-1投与と遺伝子の導入あるいは機能阻害を組み合わせて、あらたな内耳感覚上皮再生手法の確立を目指す。まったく別の臓器に、目的臓器特異的な遺伝子を複数導入することにより目的臓器を作り出す、Direct conversionの際に導入される遺伝子の多くは目的臓器の発生に関わる遺伝子であるため、それらの組み合わせて内耳感覚上皮へのDirect conversionの有無を検定する。 5.上記実験で確立された候補遺伝子と操作方法をin vivoの蝸牛に行って、形態の観察、聴覚機能の検定を行い内耳感覚上皮再生の有無を確認する。
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