研究課題/領域番号 |
23240029
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
都甲 潔 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (50136529)
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研究分担者 |
林 健司 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (50202263)
志堂寺 和則 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (50243853)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 感性計測評価 |
研究概要 |
渋味受容膜の開発にあたり,出力である膜電位と膜へのタンニン酸吸着量の間に高い相関があることを見い出し,センサの電位応答メカニズムを明らかにした.辛味センサの開発にあたり,食品から辛味物質を抽出する方法ならびに代表的辛味物質カプサイシンの抗体を検討した.また甘味センサの開発に向け,受容膜である脂質高分子膜の成分の再検討を行った.その結果,甘味センサに従来用いられていた没食子酸やトリメリット酸におけるベンゼン環の使用は必須ではないことが判明した.また,センサの複数回使用で基準電位が負値から正値へ変動する際に甘味応答が出現すること,また使用する脂質にも最適濃度域が見られた.これらの結果は,甘味センサにおける甘味物質受容のメカニズムに大きく迫ると同時にセンサの性能向上につながるものと期待される.さらに,ポータブル(小型化)味覚センサの開発に成功した.また,嗅覚情報と視覚情報の融合を図るための測定サンプルにトマトを選び,トマトの劣化を味覚センサで測ったところ,2週間の時間スケールで酸味が減少,うま味が増加することを見い出した. 次にトマトの劣化度をポータブル型匂いセンサおよびガスクロマトグラフィにより定量・定性分析を行ったところ,匂い強度が2日後にピークとなることが分かった.また,劣化時の匂いの成分はethyl acetate,酢酸などのアルコール,エステル,脂肪酸である事が分かった. 青果物(トマト,バナナ,イチゴ)の外観と印象(おいしそう等)との関係について検討した.バナナおよびトマトについては,外観物理量を使って印象をある程度の精度で予測する回帰式を導くことができたが,イチゴについては,バナナやトマトに比較すると予測が不十分であり,さらなる検討が必要であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初課題であった甘味センサに関する知見に著しい進展が見られた.それは,従来の甘味センサにはベンゼン環を含む化合物が必須であったが,必ずしもそれは必要ではないというものである.この結果は今後,甘味センサの受容メカニズムの解明と高機能化に大きく貢献すると期待される.渋味センサについては最適受容膜の開発に成功した.辛味については当初予定していたペプチドに選択性が見られないため抗体を利用したセンシングを検討中.また,小型化味覚センサの開発に成功した.トマトに関してその劣化を味覚センサ,匂いセンサ,ガスクロ,外観物理量で把握する研究に着手し,今後さらに詳細な検討が必要ではあるものの,満足行く結果を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ目的どおりの結果を得ることができたので,引き続き研究を推進し3つの感覚の融合を図る. 昨年度に続き測定対象にトマトを選び,味覚,嗅覚,視覚情報の抽出を行う.本年度,匂いセンサならびにガスクロマトグラフィを用いることでトマト劣化時の匂い成分がethyl acetate,酢酸などのアルコール,エステル,脂肪酸であることが判ったので,さらにセンサ出力とこのようなキー物質との関係を明らかにする.視覚センサでは,引き続き,視覚情報が人間の心理(感性)にどのような影響を及ぼすかについて検討を行う.特にトマトの色や形,表面の状態が人間の主観評価にどのように影響するかを検討し,外観から主観評価を予測する精度向上を行う. これら3つの分担課題の成果を持ち寄り,トマトの品質(おいしさと安全性)へ及ぼす要素について解析を行う.特に時間に伴う劣化の度合いについて,味覚,嗅覚,視覚情報の各々で時間的な不一致が見られる点は注目に値すると考えている.つまり,これは各感覚で与える情報が別個なのか,もしくは何らかの計測上の問題に起因するのかという点である.これらを明らかにすることで,これら3つの感覚の役割を判定する.以上の研究を通じ,品質を客観化・数値化する味覚・嗅覚・視覚融合バイオセンサシステムを開発する.
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