研究概要 |
本研究は、人間の持つ言語機能の基盤が、人間以外の動物でどう発現しているのかを、人工文法の知覚を手がかりとして行動レベルおよび脳機能レベルで比較検討しようとするものである。初年度は、研究の現状を把握するため文献調査とトリおよびヒトが単純な規則を学習するかどうかを調べるための行動実験を行った。 文献調査の結果は1本の総説論文としてまとまり出版された。この総説の中で、鳥の歌が有限状態規則を超えるものではないこと、鳥の歌には人間の言語と同じ意味では階層構造が存在しないことを明らかにした(Berwick, Okanoya, Beckers & Bolhuis, 2011)。 ヒトとトリを用いた比較行動研究においては、ABBとABAという単純な規則を、A,Bそれぞれを構成する音韻の特異性を超えたルールとして抽出できるかどうかを検討した。ヒトについては訓練段階ではフィードバックを与え、テストでは与えなかった。トリについてはオペラント条件づけで弁別を訓練し、テストでは強化のないプローブ刺激を提示した。ヒトにおいては、統計的に有意になるレベルで弁別は可能であったが、非常に難しかった。トリにおいては音韻に基づくに固執し、ルールに基づく弁別に至ることがなかった。これらの結果は、ヒトについては2012年に出版され(Sun, et al, 2012)、トリについては2012年3月の国際会議で発表された(Okanoya, et al, 2012)。ヒトにおいては行動に加えて脳波計測も行い、意識的に弁別できてなくても、ルール抽出に対応した脳波(N400)が検出できることを示した。 これらに加え、トリについては条件づけによらない自然な発声行動の変化から刺激への順化・脱順化を測定する方法を試みた。この方法はそもそも刺激依存性があまりに高く、信頼できる方法として人工文法の弁別には利用できないことが判明した。
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