研究課題
本研究の目的は、非意識下におけるワーキングメモリの働きを、その脳内機構を明らかにすることから解明することを目標とした。ワーキングメモリは、情報の一時的保持と並行して処理をおこなう機能を持ち、高次認知の基盤となる記憶システムである。24年度には、麻酔によりワーキングメモリの減衰状況を創出することで、ワーキングメモリ減衰の認知神経科学的機序を明らかにすることを目標とした。麻酔の深度を変化させ、それぞれの段階において、ワーキングメモリ課題の遂行成績と、麻酔からの回復段階における成績を比較検討した。麻酔薬を用いて麻酔深度を調整することにより、意識レベルを3段階に変化させた。それぞれの段階において、単語のカテゴリー分類(野菜、乗り物など)と、分類に合致した単語の保持、および忘却課題遂行がどの程度まで可能かを検討した。なお、麻酔下の実験については倫理審査の内容を踏まえ、実験内容の説明文を作成した上で、実験参加者から同意書を取得した。また、麻酔科専門医3名以上の立ち会い、血圧・心電図・パルスオキシメータなどのモニタ装着、気道確保・蘇生などの準備を徹底させた。25年度には、ワーキングメモリの中央実行系機能における注意制御の特徴を検討するため、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)や経頭蓋直流刺激(tDCS)などの脳イメージング研究法を用いた。その結果tDCSにより注意制御が促進され、ワーキングメモリ課題の遂行が促進される結果を得た。さらに、情動がワーキングメモリの遂行にどのように影響するかをfMRI実験により検討した。その結果、positive 情動が脳幹に働きかけ課題遂行を促進する一方で、negative情動は扁桃体に働き課題遂行が低下する知見も得た。以上のように、中央実行系の注意制御は、麻酔による意識段階、tDCSによる刺激、さらには情動の影響を受けて、変化する可能性を示した。
1: 当初の計画以上に進展している
経頭蓋直流刺激を用いた実験や、fMRIによる実験は、予想していたよりも順調に進んでいる。また麻酔による実験計画も、予備実験を終了して26年度の実施に向けた準備を整えている段階であるため、予期していた以上に進展していると評価する。
26年度は、麻酔深度を調整することにより、意識レベルがワーキングメモリ遂行に及ぼす影響について、より詳細に検討する実験を実施する計画である。実験の性質上、関係者を実験参加者とすることはできないこと、実験参加者の謝金は上限が制約されること、実験は1日に一回とすることなどから、参加者募集に困難を示すことが予想される。そこで、個人データを綿密に分析することにより、意識レベルの変化に伴う特徴を明らかにする計画を立てる。また、麻酔無しの統制群についても検討する必要があるため、同じように実施する予定である。統制実験も麻酔実験と同様に長時間の実験が必要となるため、それに対応する実験参加者を集める計画である。さらに、ワーキングメモリの働きが発達する幼児、児童についても、行動実験を中心に、中央実行系の発達の過程を探索する計画である。加えて、ロボットの動作を用いた実験も計画して、ロボットによるpositive感情が、ワーキングメモリの中央実行系の脳内機構に働きかける可能性を探索する計画である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (31件) (うち招待講演 13件) 備考 (1件)
Proceedings of 4th ICNP
巻: ― ページ: 43-48
人工知能学会論文誌
巻: 28 ページ: 112-121
システム制御情報学会誌
巻: 57 ページ: 31-36
Behavioural Brain Research
巻: 233 ページ: 90-98
10.1016/j.bbr.2012.04.04
http://osaka.hus.osaka-u.ac.jp/