研究課題/領域番号 |
23240036
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
苧阪 満里子 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (70144300)
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研究分担者 |
真下 節 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (10110785)
石黒 浩 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (10232282)
長井 志江 大阪大学, 工学研究科, 特任准教授 (30571632)
中江 文 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 准教授 (60379170)
齊藤 智 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (70253242)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ワーキングメモリ / 実行系機能 / 麻酔 / 鎮静 / ポジティブ情動 / ロボット / 加齢 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、非意識下におけるワーキングメモリの働きを探索することであった。ワーキングメモリは、認知活動を行いながら、それに必要な情報を一時的に保持する機能である。ワーキングメモリの働きは意識的な制御により行われていると考えられるが、本研究では意識レベルが異なるときにワーキングメモリの働きがどのように変化するのかを明らかにすることを目標とした。 26年度と27年度は、麻酔により鎮静状態になった段階と回復した段階を3段階に区切り、それぞれの段階におけるワーキングメモリ遂行の特徴を明らかにすることで、意識段階とワーキングメモリとの関連を検討した。その結果、麻酔による鎮静段階の中のレベルにおいて、ワーキングメモリが特徴的な低下を示すことが分かった。またそこでは、ワーキングメモリ課題には対応できるものの、その内容を一時的に保持しておくはたらきが低下することも明らかになった。このようなワーキングメモリの遂行が困難な状況は、高齢者のワーキングメモリの低下状態と近似していることが示唆された。 そこで、鎮静状態での脳活動が低下した状況において、その脳領域の活動を活性化させ、課題遂行を向上させることができれば、加齢によるワーキングメモリの低下を阻止することも可能になると考え、この点についても検討した。具体的には、子供のような人型ロボットとの交流により、ポジティブ情動を強化することに取り組んだ。なお、この時の脳活動は、ロボットとの動作を通して測定するため、身体の動きを伴う活動中の脳活動の測定が可能なNIRS装置を用いて検討した。その結果、ポジティブ情動により前頭前野を中心として活性化が高まる結果を得た。一方で、活動が抑制される領域もあり、こうした活動増強と抑制の相互作用が、課題遂行に重要であるという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
麻酔による鎮静レベルは、当初1段階にしか設定できないと考えていた。しかし、大阪大学医学部の手術室を使用することが可能となり、また、4名の麻酔科医師の協力が得られるようになったことにより、鎮静レベルを4段階にまで細分化することが可能となった。 そして、呼びかけに応じない状態の約2分の1レベルの鎮静段階が、指示された認知行動は可能なものの長期記憶に転送できないという、ワーキングメモリが健全に機能する限界の意識レベルであるという知見を得た。この鎮静段階は、加齢によるワーキングメモリの減衰段階に近似しており、鎮静レベルとワーキングメモリの遂行の関連を検証するデータを得ることができたと考える。そこで、鎮静段階でのワーキングメモリの低下にかかわる脳領域を同定することにより、加齢によるワーキングメモリ低下を防ぎ、さらに健全に維持する可能性への道筋がつくものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの麻酔による非意識下状況がワーキングメモリの遂行に及ぼす影響に関する研究結果について、さらに詳細に分析して検討することを計画している。具体的には、麻酔による鎮静レベルにおけるワーキングメモリの課題の特徴をもとに、脳の鎮静上に影響を与え活性化する実証研究を実施する計画である。 さらに、これまでに得られた麻酔による鎮静レベルの変化に関する結果は、加齢によるワーキングメモリの減衰状況、いわば疑似的な認知症状況に相応するものと考えられる。そこで、この時の脳機能低下の特徴を、さらに前頭葉機能低下を中心に探索していくことにより、加齢に伴う脳機能低下の特徴を明らかにすることを目指す。また、これまでに得られている、情動面からのはたらきかけにより低下しがちな脳領域の活性化を図ることができるという知見について、さらなる検討を行う予定である。これには、27年度に購入した設備備品を用いる計画である。 加えて、ワーキングメモリの働きが発達する幼児についても、意識的制御の発達とワーキングメモリ機能の発達との関連について探索する計画である。 以上のように、今後はこれまでに得られた実験結果のさらなる分析・検討を行い、成果の公表に向けて準備する計画である。
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