研究課題
1.食物探索行動・摂食行動を伴う匂い食物連合学習時の嗅球、嗅皮質、前頭眼窩皮質の活動の同時記録: 平成24年度までの研究により、「匂い-食事連合学習」の行動実験アッセイ法を確立することと、自由行動下のラットの行動状態をモニターしながら、ラットの呼吸パターンおよび、嗅球、嗅皮質、前頭眼窩皮質、嗅結節のニューロン群の長時間スパイク活動および局所電場電位を記録する実験方法を確立した。 平成24年度の実験結果より、ラットは食物探索時や摂食行動時に、それぞれの行動に特有の呼吸パターンを示し、この呼吸リズムと対応して、匂い情報が、嗅球から嗅皮質へと、さらには前頭眼窩皮質へと送られていくことを見出した。また、嗅球から嗅皮質および嗅結節へと送られる信号も見いだされた。さらに、これらの匂い情報の流れには2つの時間枠が存在し、まず呼吸の初期相に房飾細胞の活動による信号が送られ、少し遅れて僧帽細胞による信号が送られることを見出した。2.鼻閉により嗅覚入力を遮断した動物では、食後睡眠時におこる新生顆粒細胞の細胞死の増加が、より早く起こる。: 我々の平成24年度までの研究により、「嗅球では、新生顆粒細胞の細胞死による神経回路からの除去が、嗅覚経験を伴う食事の後の睡眠時に顕著に増大すること」、および「この新生顆粒細胞の除去には、食後の睡眠時に起こり嗅球へとtop-downに伝わる嗅皮質鋭波が関与すること」を見出している。本年度の研究により、「鼻閉により嗅覚入力を遮断したラットでは、新生顆粒細胞の細胞死は5倍以上に増えるが、細胞死の開始時間が早くなり、食後の休息時に始まること」が見出された。
2: おおむね順調に進展している
「自由行動下での嗅球、嗅皮質、前頭眼窩皮質、嗅結節からのニューロン活動記録法」および「嗅覚ー味覚連合学習の行動実験アッセイ法」が確立した。さらに、実際の匂いの吸い込みによって誘起されたニューロン活動が、嗅球から嗅皮質を経由して、前頭眼窩皮質へと伝達される様子が記録できるようになり、新しい実験手法の開発は当初の目的どうり順調に進んでいる。また、当初予想していなかった、時間枠のことなる2種類の嗅覚信号伝達様式の発見(吸気の相におこり房飾細胞経路を起源とする早い嗅覚信号の流れと、呼気の相におこり僧帽細胞を起源とする遅い嗅覚信号の流れ)より、匂い情報の学習・記憶・認識の新しいメカニズムの解明へと研究が展開するようになり、研究結果も順調に出始めた。また、匂い記憶の固定化にともなう神経回路の再編メカニズムに関しては、食後の睡眠期におこる嗅球神経回路の改変の解析が進むとともに、鼻閉による嗅覚入力遮断の場合には、食後の休息期にすでに神経回路の改変が始まることも見いだされた。以上の理由により、本研究は全体として順調に進展していると考えられる。
平成25年度以降は、匂いと食べ物の連合学習に伴う、匂い情報の流れを、「嗅球ー嗅皮質ー前頭眼窩皮質・神経経路」と「嗅球ー嗅皮質ー嗅結節・神経経路」のそれぞれにおける活動記録により解析を進める。 また、房飾細胞を起源とする早い嗅覚信号の流れと、僧帽細胞を起源とする遅い嗅覚信号の流れのどちらが、嗅覚記憶メカニズムに関与するかを決定する。食後睡眠時の嗅覚記憶の固定化に関しては、睡眠時におこる前頭眼窩皮質の徐波と、嗅皮質から嗅球へ伝わるtop-down鋭波との同期現象や、嗅皮質鋭波が嗅結節へ伝わる現象(平成24年度に発見)に着目し、嗅覚中枢の神経回路全体が一体となって食後睡眠期に再編される様子を解明する。
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http://morilab.m.u-tokyo.ac.jp