研究概要 |
二つの目は異なる角度から世界を見ており、左右の網膜像はわずかに異なる。しかし、我々は二つのずれた視野像を感じるのではなく、一つの立体世界を知覚する。左右網膜像の水平方向の位置ずれ(両眼視差)に基づき奥行きを知覚する能力は両眼立体視と呼ばれる。両眼視差の検出はV1で行われるが、V1細胞の活動は奥行き知覚の形成に直接貢献せず、その実現には視覚連合野が必要である。本研究では、①奥行きの弁別のために、両眼視差検出以後になされる情報処理内容を解明し、②高次視覚野(V4とMT)がこれらの計算過程へどう関与するかを検討する。この解析を通して、「奥行き知覚の成立に両眼相関計算と両眼対応計算の2つの過程が直接的に貢献することができ、両者の相対的貢献度は、視覚刺激条件に依存して計算に関与する脳部位が変わることにより、適応的に変化する」という仮説を検証する。 本年度は、①両眼対応計算過程が、V1,V2,V3,V4と側頭葉視覚経路をのぼるにつれて徐々に進行していること、②輝度反転ランダムドットステレオグラムにおける奥行き知覚の反転が、脳内において相対視差を伝えている場所でのできごとであること、③V4単一細胞の活動では説明できない奥行き知覚の性質が、V4細胞集団の活動プーリングにより説明できることの3つの知見を得た。明年度に向け、成果のとりまとめを進めている。さらに、本年度、V4野の神経活動の2光子カルシウムイメージングのデータ取得が進んだ。 さらに、昨年度より進めていた、視覚刺激のリフレッシュ速度が高いときには両眼相関計算過程が奥行き知覚に反映され、リフレッシュ速度が低いときには両眼対応計算過程の出力が奥行き知覚に反映されることを示す結果をまとめ、論文を投稿した。
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