研究課題/領域番号 |
23240050
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
長谷川 成人 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 分野長 (10251232)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | αシヌクレイン / タウ / TDP-43 / 伝播 |
研究概要 |
患者剖検脳に蓄積する異常タンパク質の構造や性質を調べることで、異常タンパク質病変の広がりが一カ所でおこったものどうかの検討を行った。前頭側頭葉変性症(FTLD)やALSの患者脳脊髄に蓄積する異常TDP-43について、トリプシンやProtenase Kなどのタンパク分解酵素で処理し、それらに耐性を示すバンドのパターンをpS409/410抗体を用いて解析した結果、FTLD-TDPの病理分類(type A~C)に一致して、異なるパターンを示すことが明らかとなった。また、一人の患者について調べてみると、どの部位においてもそのバンドパターンに違いはみられなかった。この結果は、TDP-43が複数の異常をとりうるにもかかわらず、一人の患者脳においてはどこでも同じ異常構造をとっていることを示し、一カ所で生じた異常構造が脳内に伝播したことを示唆する。 細胞内異常タンパク質伝播の実験的検証として、野生型マウスの脳内に線維化αシヌクレインやレビー小体型認知症(DLB)の患者脳に蓄積する異常αシヌクレインを接種する実験を行った。その結果、いずれの場合においてもレビー小体型認知症にみられる異常リン酸化αシヌクレインの病変が確認された。病変は接種後3ヶ月頃から出現し、時間経過に伴って脳全体に広がることが観察された。また生化学解析の結果、蓄積した異常αシヌクレインはマウスの内在性αシヌクレインが構造変化、蓄積したものであることが判明した。マウス脳内において、異常ヒトαシヌクレインが種の壁をこえてマウスαシヌクレインを異常に変換することが実験的に証明されたといえる。この手法は遺伝子改変のない野生型マウスにおいて、短期間で変性病理を再現するモデルであり、薬剤の評価やメカニズムの解明に極めて有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生型マウスの脳内に異常タンパク質である線維化αシヌクレインを接種することで、3ヶ月という短期間で、実際の患者脳と区別が使いほどよく似た異常病理を再現することに成功した。またこの方法は再現性が高く、効率に異常病理を引き起こすことが可能である。同じ手法がタウやTDP-43にも応用可能と考えられると共に、治療薬候補の評価においても極めて有用と考えられる。メカニズムについては未だ不明であるが、現象としては、細胞内の異常タンパク質が細胞間を伝わってひろがることにより、病気が進行するという仮説をほぼ実証するものであり、変性疾患の発症や進行機序解明への大きな一歩といえる。
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今後の研究の推進方策 |
線維化αシヌクレインの野生型マウスの中脳黒質への接種により、αシヌクレイン病理の再現とその広がりがみられたことから、次に他の脳部位に対して接種を行い、接種部位によって病変の広がりが異なるかどうかについて検討する。また、αシヌクレインノックアウトマウスでは、異常αシヌクレインを接種しても病変が起こらないことを確認する実験を行う。この他の、異常タウや異常TDP-43を野生型マウスや遺伝子改変マウスの脳や腹腔に接種し、異常病理がおこるかどうかの検討を行う。 申請者らは、AD患者脳に蓄積するタウ、DLB患者脳に蓄積するαシヌクレイン、さらにALSやFTLD患者組織に蓄積するTDP-43の異常リン酸化部位を世界に先駆けて同定してきたことから、正常分子と異常分子を区別するリン酸化部位やペプチド抗原の情報を蓄積し、特許も申請している。そこでαシヌクレインに対する抗原を免疫するワクチン療法や異常リン酸化部位に対する抗体療法について、線維化αシヌクレイン接種マウスを用いてその効果を検討する。投与後、血中において抗原に対する抗体価の上昇がみられるか、マウスの症状の改善や異常タンパク質の広がり、蓄積の減少がみられるか、などについて検討する。 また、細胞モデルを用いて、異常タンパク質の伝播を制御する低分子化合物の探索を既存薬ライブラリーから行い、効果が期待できる安全な化合物をスクリーニングする。
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