研究課題/領域番号 |
23240053
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
柚崎 通介 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (40365226)
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研究分担者 |
幸田 和久 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (40334388)
掛川 渉 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70383718)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ニューロン / シナプス / 神経回路 |
研究概要 |
記憶・学習の基礎過程の一つとして長期抑圧(LTD)が注目されている。神経活動亢進によって、シナプス後部におけるAMPA型グルタミン酸受容体が選択的にエンドサイトーシスされることがLTDの実体である。しかしその分子機構についてはよく分かっていない点が多い。本研究では、LTD誘導時におけるデルタ2型グルタミン酸受容体(GluD2)による細胞内シグナリング経路を解明すること、およびシナプス後部におけるエンドサイトーシス実行分子の制御機構を解明するという2つのアプローチ法によりこの問題に挑み、小脳・海馬を含めた新しい統合的なLTDの分子機構モデルの確立を目指す。 GluD2は小脳プルキンエ細胞に特異的に発現し小脳運動学習とLTDの発現に必須であること、GluD2のC末端に結合する分子がAMPA受容体エンドサイトーシスとLTD誘導を引き起こすことがこれまでに分かっていた。しかしそのシグナリングの実体については謎であった。LTDが誘導されるためには、AMPA受容体GluA2サブユニットの細胞内部分にあるセリン残基(S880)がリン酸化され、シナプス繋留分子から外れることが必須である。今年度は、GluD2のC末端部分はチロシン脱リン酸化酵素PTPMEGと結合することによって、GluA2のS880の4つ前のチロシン残基(Y876)を脱リン酸化し、そのことによってS880のリン酸化とLTDの起きやすさを制御することを初めて明らかにした。逆に、GluD2欠損マウスにおいても、Y876を脱リン酸化すると、LTDが誘導できることも分かった。このようにGluD2は、GluA2の2つのリン酸化部位の相互作用を介してAMPA受容体の輸送とLTDを制御するシナプス可塑性制御分子であるという新しい概念を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目標の一つであった「シナプス後部におけるエンドサイトーシス実行分子の制御機構の解明」についてこれまでに、海馬CA1において、神経活動による脂質合成酵素の制御機構という新しい分子機構の解明に成功し、Neuron誌に論文化できた(2012)。また昨年度には、小脳LTDにおいてデルタ2受容体が何故必須であるかという長年の謎についても決着させ、PNAS誌に論文化できた(2013)。これらのことから当初の計画以上に進展することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、LTDのもととなるエンドサイトーシス実行分子の制御機構について解明を進める。これまでにGluD2のC末端を介するAMPA受容体エンドサイトーシス制御機構が明らかとなってきたので、今後はGluD2のリガンドであるD-SerやCbln1による細胞外からの調節機構を明らかにしていく。また、AMPA 受容体エンドサイトーシス実行経路として、アダプタータンパク質群によるAMPA受容体認識機構の解明を進める。
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