研究課題
記憶・学習の基礎過程の一つとして長期抑圧(LTD)が注目されている。神経活動亢進によって、シナプス後部におけるAMPA型グルタミン酸受容体が選択的にエンドサイトーシスされることがLTDの実体である。しかしその分子機構についてはよく分かっていない点が多い。本研究では、LTD誘導時におけるデルタ2型グルタミン酸受容体(GluD2)による細胞内シグナリング経路を解明すること、およびシナプス後部におけるエンドサイトーシス実行分子の制御機構を解明するという2つのアプローチ法によりこの問題に挑み、小脳・海馬を含めた新しい統合的なLTDの分子機構モデルの確立を目指している。AMPA受容体の選択的エンドサイトーシスはクラスリンとクラスリンアダプタータンパク質AP-2に依存している。しかし AP-2がどのようにAMPA受容体を特異的かつ神経活動依存的に認識するのかについてはよく分かっていなかった。今年度には、AMPA受容体に強固に結合するStargazinが、神経活動の亢進に伴って脱リン酸化されるとアダプタータンパク質AP-2と結合するという新しいメカニズムを発見した。さらに、クラスリンとAP-2によってエンドサイトーシスされたAMPA受容体―Stargazin複合体は、AP-3Aと結合することにより、分解経路に運ばれることがLTDの維持に必須であることも新たに判明した。
1: 当初の計画以上に進展している
目標の一つであった「シナプス後部におけるエンドサイトーシス実行分子の制御機構の解明」について、これまでに神経活動による脂質合成酵素の制御機構という新しい分子機構の解明に成功し、Neuron誌に論文化できた(2012)。また小脳LTDにおいてデルタ2受容体が何故必須であるかという長年の謎についても決着させ、PNAS誌に論文化できた(2013)。さらに昨年度にはLTD時にどのようにしてAMPA受容体が特異的かつ動的にエンドサイトーシスされるか、という長年の問いに答えることができた(Nature Communications, 2013)。これらのことから当初の計画以上に進展することができたと考えている。
引き続き、LTDのもととなるエンドサイトーシス実行分子の制御機構について解明を進める。これまでに明らかになったGluD2のC末端によるAMPA受容体のチロシンリン酸化制御機構が、D-SerやCbln1が細胞外からGluD2に結合することのよってどのように調節されるのかを明らかにし、論文化を進めていく。一方、AMPA 受容体エンドサイトーシス実行経路としては、AMPA受容体のサブユニットによってLTDの起きやすさが違う原因が不明点として残されている。例えばLTDはGluA2、長期増強(LTP)はGluA1サブユニットがそれぞれ制御する。この現象はStargazinとAP-2との結合では説明できないため、他の分子機構の関与を明らかにする。
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