研究課題
項目1)変異型ミトコンドリアゲノム(mtDNA)を導入したマウスの作製と解析について:mtDNAのtRNA-Lys遺伝子に点突然変異を有するマウスの作製に成功したため、このマウスの系統維持ならびに病態解析を行った。その結果、点変異型mtDNAを70%程度含有するマウスコロニーの維持に成功した。このようなマウス群の大規模な病態解析を実施したが、現状、筋力低下以外の病態は観察されていない。そこで、項目3)の成果(後述)を考慮し、このモデルマウスに糖尿病を誘導することで、導入したtRNA-Lys遺伝子に点突然変異を有するmtDNAの病原性を増強させる試みを開始した。また、新たな点変異型mtDNA導入マウスの作製に着手し始めた。項目2)ミトコンドリアの品質管理と病態発症制御について:肝臓と血液細胞特異的にミトコンドリアの分裂を阻害し、且つ、欠失型mtDNA(複数の遺伝子を喪失した分子種)を導入したモデルマウスの作製に成功しているため、このマウスの大規模な病態解析ならびに導入した欠失型mtDNAの動態変化を解析した。このようなマウスでは、欠失型mtDNAの含有率が低いにもかかわらず(野生型の核背景では病態誘導が起こらない)、肝臓での鉄代謝の異常ならびに貧血が誘導された。また、ミトコンドリア分裂を阻害すると導入されている欠失型mtDNAが明らかに蓄積しやすいことが分かった。この結果は、ミトコンドリア分裂は異常なミトコンドリア集団を正常なミトコンドリアネットワークから隔離する働きがあることを示唆している。項目3)核とミトコンドリア両ゲノムによる病態発症機構の解明:欠失型mtDNAの病原性が糖尿病の核背景で増強される現象の分子基盤を把握するため、このような組織におけるミトコンドリア関連因子の変動を解析した。その結果、ミトコンドリアバイオジェネシスに関わる因子群が糖尿病環境下で低下してしまうことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
ヒトミトコンドリア病の典型的な病型の発症原因とされるRNA-Lysに点変異を有するmtDNA分子種を導入したモデルマウスの作製と系統維持に成功した。また、現状、さらに2種類の異なるモデルマウスの作製に着手でしている。変異型mtDNAを導入したモデルマウスの作製は、導入する変異型mtDNA分子を自然界から見出すことから開始するため、実験動物学的な側面からはこの進捗はおおむね順調であると評価した。変異型mtDNAを導入したマウスを活用し、さらに、核遺伝子の変異(ここではミトコンドリア分裂因子Drp1)や病的な核背景(ここでは糖尿病:db/db )を導入したマウス群の作製に成功し、一定の成果を得ている。特に、ミトコンドリア分裂阻害による変異型mtDNAの蓄積を見出した点は本モデルマウスを駆使しない限り解明できない所見である。
ヒトミトコンドリア病の典型病態であるtRNA-Lysに点変異を有するモデルマウスの作製に成功したが、現状、樹立したマウスの病態はヒトのそれを再現しているとは言えない。この状況を打開するため、適切な核背景の追加導入によって病態を発症させ、病態モデルマウスとして樹立したいと考えている。肝臓と血液細胞特異的にミトコンドリアの分裂を阻害し、且つ、欠失型mtDNAを導入したモデルマウスのさらなる解析を行い、病態発症の機構ならびに欠失型mtDNAがさらに蓄積する細胞学的な理由を解明する予定である。
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http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~jih-kzt/