研究課題/領域番号 |
23240065
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神保 泰彦 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (20372401)
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研究分担者 |
湯ノ口 万友 鹿児島大学, 理工学研究科, 教授 (10094187)
佐久間 一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50178597)
川合 謙介 東京医療保健大学, NTT東日本関東病院, 教授 (70260924)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 神経科学 / 神経工学 / 細胞・組織 / ナノバイオ |
研究概要 |
平成25年度の研究実施計画として設定した検討課題に対して以下の成果を得た. (1)脳幹神経核から採取した細胞群の培養 海馬,大脳皮質等上位の中枢神経系に広範囲調節系として作用し,かつその同期活動(同期活動制御が正常な範囲を逸脱した場合にてんかん様の活動が発生すると考えるのが本研究の立場である)制御に本質的な役割を担うと考えられる背側縫線核 (dorsal raphe nucleus; DRN, セロトニン作動性)の細胞群採取とその培養手法確立を重点的に進めた(ノルアドレナリン作動性青斑核; LCについてはH24年度に実施).今回,ラット新生児から採取した脳幹細胞群を分散培養し,5-Tryptophan Hydroxylaseを指標とする免疫化学染色による評価を実施した.高効率に当該部位を摘出,採取するプロセスを確立することができた.また,微小電極アレイ基板(MicroElectrode Array; MEA)上で培養した細胞群から培養13日目の時点で自発電気活動を計測することに成功した. (2)海馬培養神経回路の同期電気活動に対する神経調節物質の効果 ノルアドレナリン(NE)投与の効果につき,同期活動の指標であるネットワークバーストに焦点を絞って計測・解析した.スパイク数,バースト数,バースト持続時間,バースト活動の空間的な広がり,のいずれにおいてもNE投与による抑制効果が観測され,NE作動性神経核活動の抗てんかん効果を示唆する結果となった.同時にこの効果が培養神経回路の発達段階に依存して変化する可能性が示唆され,培養開始後2,3,4週間の試料に対するNE投与の効果を系統的に調べた.発生するバースト数が減少する傾向は全ての試料に共通であったが,1バーストの持続時間と含まれるスパイク数,バースト活動の空間的な広がりについては3週間までとそれ以降で異なる傾向を示すことがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床応用が進んでいるにも関わらず作用メカニズムが明らかになっていない迷走神経刺激(VNS)療法につき、工学技術を積極的に利用する立場から機序解明を目指すのが本研究の立場である.計画開始から3年間が経過し,MEA基板上にPDMS製マイクロ立体構造を形成する製作プロセスが確立され,新たな計測技術として安定運用が可能になった. てんかん発作につながる脳神経回路同期活動に対する神経調節作用の鍵でありかつVNSの作用部位と考えるノルアドレナリン作動性神経核(青斑核),セロトニン作動性神経核(縫線核)の採取,培養手法についても免疫組織染色を用いた評価により,一定の成果が得られた.海馬・大脳皮質に関しては既に安定した培養手法が確立されており,これらの統合によりin vitroモデル系確立が想定できる段階に達した. 研究グループとして独自技術を有するMEA基板を利用した計測は,空間的に広がる神経活動パターンを長期間継続的に観測できる点がその特徴である.今回,培養開始後1ヶ月間にわたって計測を実施した結果,これまで報告のない神経回路の成熟段階に依存した薬理効果を系統的に観測・評価する見通しが得られた.
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今後の研究の推進方策 |
マイクロ加工技術を積極的に利用するという視点からの計測手法は安定運用の段階に達した.VNS作用機構解明に向けたin vitroモデルの構成要素である青斑核,縫線核の採取,培養手法についても一定の成果が得られている.研究計画最終年度に当たり,以下の項目に焦点を絞って実験・解析を実施する:(1)青斑核神経細胞群の長期培養手法を確立する,(2)ノルアドレナリン投与の神経回路同期活動制御の効果を発達段階依存性も含めて系統的に評価する,(3)セロトニン投与の神経回路同期活動制御の効果を発達段階依存性も含めて系統的に評価する,(4)上記2種類の神経調節物質の複合投与の効果につき評価する. 以上の実験結果を統合し,VNS作用メカニズムにおける神経調節物質の作用につき考察,今後さらに検討すべき課題を整理・提示して本研究の総括とする.
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