研究課題/領域番号 |
23240070
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
安田 和則 北海道大学, 大学院・医学研究科, 教授 (20166507)
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研究分担者 |
田中 伸哉 北海道大学, 大学院・医学研究科, 教授 (70261287)
大橋 俊朗 北海道大学, 大学院・工学研究院, 教授 (30270812)
北村 信人 北海道大学, 大学院・医学研究科, 講師 (80447044)
黒川 孝幸 北海道大学, 先端生命科学研究院, 特任助教 (40451439)
近江谷 克裕 産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 副研究部長 (20223951)
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キーワード | ダブルネットワークゲル / 軟骨分化 / 自然再生 / 細胞内情報伝達 / 光イメージング / 細胞メカニクス / 質量分析 |
研究概要 |
1)ATDC5細胞が軟骨へ分化し凝集する過程のATP代謝を、ルシフェラーゼおよびFRETプローブを用いて1細胞レベルでモニタリングした。分化誘導3日後から周囲の細胞間で同期した細胞内ATP代謝の振動が発生し、遠方へ伝播する現象を発見した。この現象は軟骨細胞が構造を形成するときの本質的生命現象である可能性が高い。さらに2色の発光プローブを用いてATPと酸素を同時にモニタリングした結果、酸素はATPの1/2の周期で振動することを発見し、TCA回路および解糖系の両者の関与を示唆した。 2)DNゲル(酸性)の構成・構造を変えることなくH+をNa+で置換した中性DNゲルを開発し、家兎実験系を用いて両ゲルのIn vivo軟骨再生誘導効果を比較した結果、効果に有意差はなかった。この結果は硫酸基の存在が効果の本質であることを示した。 3)ATDC5細胞をDNゲル上とポリスチレン上で培養し、Jak/Stat、mTOR、MAPK(Erk1/2)の各情報伝達系に関与する主要分子群の発現量及びリン酸化状態をウエスタンブロット法により比較した。DN gel上の3日目で、MAPKおよびWnt経路の4つの分子のリン酸化が亢進していた。これらはDNゲルが誘導する軟骨分化に特有な分子である可能性がある。 4)ATDC5細胞の培養7日目において、1細胞の弾性率は軟骨分化培地群で維持培地群より有意に高値を示し、細胞膜に沿ってアクチンコーティカルレイヤーの形成が観察された。この研究は新知見をもたらすとともに、計測システムを確立した。 5)DNゲルを血清に1週間浸漬後、Tris-Clバッファーで塩濃度を上げながら洗浄を繰り返し、各洗浄液中のペプチド性物質をSEP-PAKカラムで回収し、MS/MS解析を行った。DNゲルに特異的に吸着される3つのペプチドを検出した。この結果を基に本実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「軟骨分化における細胞代謝動態の解明」に関しては当初の計画以上に進展し、多くの発見・解明を行って英文論文を発表した。「DNゲルの負電荷の意義の解析」に関してはおおむね順調に進展し、現在英文論文を準備している。「DNゲル軟骨分化の情報伝達機構の解析」はおおむね順調に進展し、DNゲルによる軟骨分化に特有である可能性のある分子を発見した。「1軟骨分化細胞の力学的特性の変化の計測」もおおむね順調に進展し、軟骨分化過程では弾性率が増加することを発見した。「DNゲルのリザーバー機能の解析」は方法の確定に時間を要したためやや遅れているが、すでに解析に入っているのでこの遅れはすぐに取り返せると判断している。以上を総合すると、本年度の「研究の目的」はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)「軟骨分化における細胞代謝動態の解明」に関しては、ATDC5細胞系ではATP代謝とCaイオンとの関係、およびATP代謝のブロックの効果を解明する。またDNゲル上での分化における効果の差を調べる。さらに細胞を骨髄由来間葉系幹細胞に変えて今年度と同様な実験を行い、細胞による差を明らかにする。(2)「DNゲル軟骨分化の情報伝達機構の解析」では、今年度発見された候補分子について、発現の経時変化を詳細に分析する。またsiRNAを用いて、その候補分子の喪失と軟骨再生能との関係を調べる。さらに細胞を骨髄由来間葉系幹細胞に変えて今年度と同様な実験を行い、それらの分子の役割を調べる。(3)「1軟骨分化細胞の力学的特性の変化の計測」では、確立した計測系を用いてDNゲル誘導軟骨分化における細胞を計測し、インシュリン誘導のそれと比較し、DNゲル誘導の特徴を明らかにする。さらに細胞を骨髄由来間葉系幹細胞に変えて今年度と同様な実験を行い、細胞による差を明らかにする。(4)「DNゲルのリザーバー機能の解析」では解析している結果をまとめる。
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