研究概要 |
がん細胞の増殖にはそれを取り巻く微小環境が極めて重要であり,炎症状態と良く似た,免疫細胞の浸潤、線維芽細胞の増殖、血管新生などが顕著に認められる。本研究では,がん微小環境の生理に基づき応答し細胞選択的に薬物を送達できるドラッグデリバリーシステムを開発し,がん微小環境のネットワークを破綻させることで根本的な治癒へと導く方法論の確立を目指す。具体的には,DDSの設計・開発において,表面抗原を狙った各細胞への能動的ターゲティングと微小環境の低酸素雰囲気に応答する薬物放出を目標とし,治療戦略としては,小胞体ストレス応答の賦活化および腫瘍関連免疫抑制性細胞の再教育を促すことを目的とする。膵臓がん細胞PANO2は1.5%酸素条件で培養するとGRP78の発現が増大するが、GRP78 siRNAとカチオン性リボソームの複合体を細胞に作用させると、アポトーシス促進因子CHOPの発現上昇、抑制因子Bc1-2の発現低下が観察されるとともに、細胞死が誘導された。さらに、GRP siRNAとの併用によりdoxorubicinの感受性が増大することが確認された。これらの効果は、糖鎖合成を阻害し小胞体ストレスを誘導するtunicamycin処理条件下でも観察された。また、大腸がん細胞colon-26において、ポリエチレングリコース修飾リポプレックスによる遺伝子発現が少量のdoxorubinの添加により促進されることが示され、これがAP-1やNF-kappaBなどの転写因子活性化によるものであることが明らかとなった。colon-26細胞の培養上清でマウス腹腔マクロファージを培養すると腫瘍関連マクロファージと同様のM2表現型が認められるようになったが、NF-kappaB siRNAを作用させることで、その表現型がM1型に再誘導されることが示された。
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