研究課題/領域番号 |
23240091
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
征矢 英昭 筑波大学, 体育系, 教授 (50221346)
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研究分担者 |
川戸 佳 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50169736)
劉 宇 帆 筑波大学, 体育系, 研究員 (90599680)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 軽運動 / 海馬 / 神経新生 / アンドロゲン / DHT / LC-MS/MS |
研究概要 |
記憶の中枢である海馬では生涯にわたり神経細胞が新生され,走運動により増加する新たな神経細胞は記憶力や空間認知機能の向上に寄与する(van Praag et al., 1999)。この運動効果の作用機序解明は,運動が筋同様に脳の可塑性を高めることを裏付け,脳機能を高める運動処方開発などへの貢献が期待される。しかし,その最適な運動条件や背景となる神経基盤は未だ不明である。私どもは最近,独自の運動モデルを駆使し,低強度運動でも海馬の神経新生を高め,その効果は精巣摘出ではなく、アンドロゲン拮抗薬により消失することを明らかにした。アンドロゲンは海馬でも合成されることから,低強度運動は海馬のアンドロゲン濃度を高め,神経新生を促進している可能生が高い。 本年度は運動が海馬神経新生を高める機構解明を目指し,低強度運動が海馬アンドロゲン濃度を高めるか検討した。被験動物には神経新生を高める2週間の低強度運動を課し、その後、有機溶媒により海馬から性ステロイドを抽出した。これまで海馬の性ステロイドの定量は困難だとされてきたが,本実験では共同研究者である川戸教授らが確立した,HPLC(高速液体クロマトグラフィー)とLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法)を併用する方法を採用し、その定量が可能となった。 その結果,低強度運動は海馬のアンドロゲン(DHT)濃度を高め,その効果は精巣摘出したラットでも同様であることが明らかになった。これまで、性ステロイドはアンドロゲンであるテストステロンからエストラジオール(E2)に変換されて作用するとされてきたが、海馬のE2濃度に有為な差は見られなかった。この結果は海馬アンドロゲン,特にDHTが神経新生を促進する新たな因子であることを示唆する。今後,アンドロゲンを中心とした神経新生の促進機構解明が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画通りに実験を実施し、低強度運動で高まる海馬アンドロゲン(特に活性の高いDHT)が神経新生の新たな促進因子であることを明らかにした。アンドロゲンは神経新生を促進する既知の因子であるBDNFやIGF-I,Wnt3の発現や機能に関わること示唆されていることから,今後,アンドロゲンを中心に低強度運動が神経新生を促進する機構解明が期待される。また,これらの研究成果は既に米国アカデミー紀要 (Okamoto et al.,Proc Natl Acad Sci,2012)に掲載されており,当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23~24年度の研究成果より,アストロサイトから分泌されるWnt3(神経分化調節因子)や海馬で合成されるアンドロゲン(特に活性の強いDHT)が海馬神経新生の促進因子であることが明らかとなった。これらの結果は,運動誘発性の神経新生においてアストロサイトが重要な役割を担うことを示唆しており,私どもの仮説を支持するものである。今後はアストロサイト代謝阻害薬(Fluorocitrate)を用い,低強度運動で高まる海馬機能(空間認知機能や神経新生など)とアストロサイトと関係についてより直接的な検討を行う予定である。
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