研究課題/領域番号 |
23240097
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 克彦 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (80344597)
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研究分担者 |
秋本 崇之 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00323460)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 運動 / ストレス / バイオマーカー / 筋損傷 / 尿 / 老化 / マイクロRNA / エクソソーム |
研究概要 |
プロテオーム解析を用いて運動負荷により変動するタンパクの網羅的解析により、尿による非侵襲的新規筋損傷バイオマーカーの探索と測定系の開発を進めた。筋損傷を誘発する運動後に採取した尿検体のうち、運動負荷96時間後までに顕著に血中筋損傷マーカーが上昇した尿サンプルを用い蛍光二次元電気泳動(2D-DIGE)を施行したところ、運動後に分子量XXkDaのスポットを検出した。このスポットをマススペクトロメトリーにより解析し、物質XのN末端フラグメントを同定した。次に物質XのN末端フラグメントを鋭敏に検出する酵素免疫測定法(ELISA)を確立した。この測定系を用いて筋損傷を誘発する運動後に採取した尿検体を測定した結果、尿中物質Xフラグメントは運動負荷48 時間後から上昇し、96時間後には運動負荷前と比較して有意な上昇を認めた。運動負荷前と比較した各測定ポイントの変化率は、48時間後と72時間後において、血中筋損傷マーカーと強い正の相関を示し、同時に圧痛、関節可動域の減少、主観的筋痛などの筋症状とも相関したことから、尿中物質Xフラグメントは新規の非侵襲的筋損傷マーカーとして有用である可能性が示された。以上より、プロテオミクスにより同定された分子は、鋭敏かつ簡便で非侵襲的な筋損傷マーカーとなり得る可能性が考えられた。 また、血中マイクロRNA(miRNA)や酸化ストレスに関するバイオマーカーの開発も進め、年齢や性差が交絡因子かどうかについての基礎検討を行った。方法として、若齢と高齢の健常男女を対象に、安静時血液サンプルを用いて、昨年度レジスタンス運動で変動することを見いだしたmiR-146a等の特定のmiRNAを定量した。測定したmiRNA のうち、あるmiRは高齢の男性で低下していることが明らかとなった。このことから,加齢や性差が血中miRNAレベルの交絡因子となり得ることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一昨年度のマイクロアレイやプロテオーム解析など既存の網羅的解析法による検討により複数の新規バイオマーカーを見出し、昨年度はPCRやELISAなどで定量的測定系の立ち上げにも成功し、実際に運動負荷で変動することも証明できたため、新規バイオマーカーの開発自体は順調に進展していると言える。また、遺伝子発現を翻訳調節レベルで網羅的に解析できるリボソームプロファイリングという測定系を我が国で初めて細胞培養レベルで立ち上げることに成功し、それを生体レベルに応用することで、さらに新規バイオマーカーの開発とその病態意義も検討できるようになりつつある。これらの研究成果は、インパクトファクター7のExerc Immunol Revをはじめ国際的な一流学術誌に掲載され始めており、さらに新規バイオマーカーの開発と変動メカニズムの解明を進めることができるように研究体制が整備された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は新規バイオマーカーの妥当性や実用性を検証するために、若齢者や高齢者のさまざまな運動負荷やトレーニング実験のサンプルを用いて測定を行い、既存の生化学指標等と比較検討してバイオマーカーとしての優位性を検証する。それと同時に、サイトカインや炎症関連物質、酸化ストレスマーカーなどの変動との関連から新規バイオマーカーの病態生理学的意義についても言及できるように検討を進める。さらに、リボソームプロファイリングを生体レベルに応用し、新規バイオマーカーの開発や病態機序の解明に役立てるように動物実験も開始しており、基礎から応用研究まで幅広く研究を展開できる準備ができている。できるところから検討を進め、成果を発表できるように計画的に研究を進める。
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