この研究はアジアにおいて、狩猟採集民から都市に生きる子どもの発育発達を多様な民族を対象に包括的に調査し、これまでに全く未知であった環境と人の発達に関する相互関係を探求する基礎を作ることが課題であり、同時に日本、ミャンマー、ネパールなどの国レベルにおけるマクロな発達標準値を検討することも視野にいれている。よって対象とした民族は多岐に渡った。例えば、シャン(タイヤイ)、パオ、インダー、モン、カイン(カレン)、ヤカイン、チン、ナーガ、リス、ラフ、ヤオ、パダウン、モーケン、ムラブリ、チェトリ、ブラーマン、シェルパ、コイリ、ヤダブ、カミなどである。収集したデータは現地において整理・入力し、日本と現地で集計した。これらの作業の遂行に当たってはこれまで以上に現地と頻繁に連絡を取り、協議した。非常に大規模な調査であったために一部の地域では補充調査が必要になり、特にアンダマン海のモーケンについては別途補充調査を実施した。このようにして多岐にわたる諸民族について、例えば山岳地域で長い間遊動してきた狩猟採集民ムラブリ、海上漂海民のモーケン、3000mの高地で生きるシェルパなどの特異な環境下で発達してゆく人々のデータを大量に収集できたのは大きな成果であった。こうしたデータをもってグローバルな視点から発達現象を記述できる基礎を作った。これら各民族ごとの58項目に亘る発達データの解析は民族ごとに行いグループごと、国ごとの発達標準値を求めるべく作業を行った。このデータによって人類文化の進化的な解釈に沿って人の発達がいかに環境によって左右され、また環境に依存して能力が開発されるのかを探求できる基礎が出来たと考えている。3月にはモーケン人に関する総合的な解析結果を日本発育発達学会第13回大会で発表した。
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