研究課題/領域番号 |
23240124
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
中西 真 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40217774)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 癌 / ゲノム / シグナル伝達 / 発現抑制 / 老化 |
研究概要 |
DNA損傷応答は真核細胞にとり重要なゲノム情報安定化機構である。最近になり、DNA損傷に応答した細胞周期チェックポイントやアポトーシスの誘導機構は理解が深まったが、早期老化誘導機構についてはほとんど分かっていない。我々は細胞周期可視化技術であるFucciシステムを利用して生細胞がどのような過程をへて老化するかを解析した。DNA損傷、分裂寿命、ガン遺伝子活性化等のあらゆる老化誘導刺激により細胞は細胞分裂期を回避してG1期に移行し、1核の4倍体細胞となり老化することが分かった。この分裂期回避にはp53依存的なp21の発現誘導が必須であった。増加したp21はCdk1およびCdk2活性の両方を強く阻害することにより、Cdh1依存的APC/C活性の増加とCdc20の分解を誘導することで分裂期を回避していると考えられた。驚くべきことに、これまで細胞老化誘導に重要と考えられていたRbファミリータンパク質はRb/p107/p130のトリプルノックダウン細胞を用いた解析から、分裂期回避や短期のG1期停止には重要でないが、長期のG1期停止、すなわち老化の維持に重要であることが分かった。一方、老化細胞で発言が強く誘導されるp16は、細胞老化誘導には機能していないが、老化細胞の恒久的なG1期停止と、老化細胞の生存に必須の役割を果たしていることが分かった。以上の結果から、少なくとも老化初期においては老化細胞は1核の4倍体細胞であり、分裂期回避がその誘導に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで細胞老化は個体の加齢に伴う様々な退行性変化に寄与すること、また発がん防御のもっとも重要な機構として機能することが分かっており、老年病発症や発がんの面から非常に興味を持たれている。しかしながら、これまでいかなる分子機構により細胞老化が誘導されるのか、あるいは細胞周期のどの時期から逸脱して老化細胞になるのか等、不明な点が多かった。本研究により、細胞老化誘導機構の詳細が明らかになり、その本体が解明できたことは、今後の老化、老年病研究のみならず癌研究等においても大きな貢献をもたらすことは疑いなく、本研究はおおむね順調に推移していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの当該研究において、細胞老化誘導機構についてはほぼ全容が明らかとなった。しかしながら、p53遺伝子の機能については、いかなる分子機構によりRbファミリー遺伝子産物群の脱リン酸化を促進するのかについてはまだ不明であり、この点を明らかにしている。また、老化細胞の恒久的細胞周期停止についてはp16遺伝子産物が重要な役割を果たしていることは疑いないが、その他に増殖関連遺伝子群のエピジェネティック制御が重要であると考えられる。この点を解明していきたいと考えている。 一方、老化細胞の個体内での役割については未だ不明な点も多く、DNA損傷なくp53を活性化して細胞老化誘導可能なNutrin3a処理により誘導した老化細胞を、癌細胞存在下で免疫不全マウスに移植することで、がん発症における老化細胞の役割について解析していく予定である。
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