研究課題
EGFファミリーの細胞増殖因子であるHB-EGFは生体にとってきわめて重要な因子の一つで、その欠損は広範な異常を示す。HB-EGFの発現の亢進も種々の疾病の原因となり得るが、その中でもとりわけ重要なのは癌との関連である。HB-EGFは種々の癌で高発現し、癌細胞の増殖・浸潤・転移・予後、あるいは抗癌剤耐性と深く関わっており、癌の分子標的として急速に注目が集まっている。しかしながら、HB-EGFの作用機構、癌における役割については、解明すべき問題が多数残されている。本研究課題は、HB-EGFの癌における役割と分子機構の解明を進め、新たな分子標的治療法の開拓を目指すもので、今年度は以下のテーマで研究を進めた。(1)HB-EGF C末端フラグメントの新たな役割:HB-EGFがエクトドメインシェディングを受けるとsHB-EGFとトランスメンブレン領域を含むC末端フラグメント(CTF)を生じる。我々はCTFにこれまで全く知られていなかった破骨細胞分化抑制作用やヌードマウスでの腫瘍形成作用があることを見いだした。今年度はCTFの作用についてさらに深く解析し、CTFが複数の転写因子に結合し、その分解を促進することで、遺伝子発現に影響を与えることを見いだした。(2)HB-EGFが示す増殖促進作用と増殖抑制作用の解析:癌細胞においてsHB-EGFは増殖や細胞運動を強く亢進させる。一方、発生過程の心臓弁ではsHB-EGFは増殖抑制因子として働く。同じ因子がなぜ相反する作用を示すのか、その分子機構を詳細に解析した。その結果、増殖抑制機構にはp38 MAPKおよびJNKが関与することを明らかにした。
3: やや遅れている
本研究で実施予定の実験計画「HB-EGFが示す増殖促進作用と増殖抑制作用の解析」に関し、マウス胎仔由来心臓弁片の初代培養間質細胞に対する、レンチウイルスベクターを用いた遺伝子導入系において、当初実験で使用していたエピトープタグ付き発現ベクターでは、遺伝子導入細胞の増殖性測定について、抗タグ抗体と増殖マーカー抗体による二重染色法でその解析を行っていたが、二重染色の結果が不安定であるという問題が生じたため、予定していた実験を一時中断し、別の最適なベクター系を再検討し、その結果、IRES-EGFPベクターを用いることで染色結果が改善されるに至ったが、この検討にかなりの時間を費やした。そのために約6ヶ月の研究の遅延が生じることとなった。但し、すでにその問題は解決し、25年度の研究テーマが進行しているので大きな問題はない。
(1)HB-EGF C末端フラグメントの新たな役割に関しては、CTFからのシグナルとsHB-EGFを介したEGFRの活性化が腫瘍形成にどのように関わるかを、CTFのみを発現する細胞、CTFとsHB-EGFを発現する細胞を作製し、あるいはそれぞれに対する阻害剤を用いて、CTFとsHB-EGFの相互的役割を解析する。(2)HB-EGFが示す増殖促進作用と増殖抑制作用の解析に関しては、弁間質細胞由来細胞株にヒト卵巣癌細胞由来cDNA発現ライブラリーを導入し、発現クローニング法により、HB-EGF存在下ゲル内培養において過増殖コロニーからcDNAを回収してHB-EGF誘導性増殖抑制に対する解除因子を同定する事を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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