「ペプチド・モチーフ」をブロック単位として用い、その複数の組合せから機能的(実用的)な人工タンパク質の創製をめざした。本研究では、特に現在再注目を集めている、「がん免疫治療」につながる、「細胞性免疫の効率的な惹起」を可能とする人工タンパク質システムの確立をめざした。具体的には、モデル抗原としてのオボアルブミンの「MHCクラスIエピトープ」「MHCクラスIIエピトープ」「二次構造形成モチーフ」を3つの異なる読み枠に埋め込んだマイクロ遺伝子をデザインし、このマイクロ遺伝子を、読み枠をランダムにずらしながら重合することで、これら3つのモチーフが組合せ的に連結した人工タンパク質ライブラリーを調製し、この中から、金属塩や鉱物オイルといった「物理アジュバンド」がなくても、in vivoで強い細胞性免疫を惹起できる人工タンパク質のクローンを選択した。このクローンは当該エピトープ提示腫瘍を担持するマウスの生存期間を延ばすことも示した。 現在、免疫治療には「物理的アジュバント」と「生物学的アジュバント」を抗原物質と同時に添加することで初めて、in vivoでの有効な免疫反応を惹起することができる。しかしながら、これらアジュバントの副作用がしばしば問題となっており、次世代アジュバントの開発が、免疫治療の推進には必須であると考えられている。今回の研究からは、アジュバントの中でも、特に「物理的アジュバント」に関しては、多様な構造を有する人工タンパク質ライブラリーをスックリーニングすることで、その使用を回避することができる可能性を示したことになり、今後の免疫治療に新しい可能性を示したことになる。 この成果は特許出願と論文、学会講演といった形で発表しており、トランスレーションをめざした企業との意見交換を進めている。既にがん抗原を埋め込んだ人工タンパク質ライブラリーの調製も進め、次のステップへと展開している。
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